前回の抑肝散解説で柴胡(サイコ)という生薬が登場しました。
柴胡+釣藤鈎は緊張をほぐす作用がありましたが、柴胡には
もう一つ、重要な効能があります。それを体現するのが今回
紹介する処方です。
・小柴胡湯(ショウサイコトウ 9番)
構成:柴胡7g+黄芩3g+半夏5g+人参3g
+大棗3g+甘草2g+生姜1g
また変な改行の仕方してますが、下段は消化吸収を助ける常套
配合で、これまで紹介した方剤では葛根湯なんかにも同様に配置
されていて、麻黄などの副作用があり得る生薬を用いる場合や、
ある程度長期に服用することが想定される方剤に組み込まれます。
小柴胡湯のメインは上段の柴胡+黄芩(オウゴン)で、この組合せに
抗炎症作用があり、これが柴胡のもう一つの側面です。特に気管
や消化管、肝臓の炎症が得意なので、気管支炎や胃腸炎、肝炎
など、とても応用範囲が広い薬です。この組合せをメインに持つ
方剤は数多く、一般に柴胡剤というグループとして紹介されます。
小柴胡湯は柴胡剤の中でも生薬数が少なく、応用範囲も広いこと
から過去に濫用され、結果多くの副作用報告がありました。その
せいで今でも危険な漢方薬という認識がありますが、濫用すれば
どんな薬だって副作用はありますから、正しく使用すれば別段
危険ではありません。小柴胡湯のみならず、柴胡剤で注意する点は
柴胡には「乾かす」作用があることです。抗炎症という魅力的な
効果に目を奪われ、乾燥に留意しないと副作用のしっぺ返しを
喰らうことになるんですね。例えば既に脱水傾向がある方には
そもそも柴胡剤の適応はありません。
「小」があれば「大」もあるわけで、柴胡剤のグループには
・大柴胡湯(ダイサイコトウ 8番)
構成:柴胡6g+黄芩3g+半夏4g+芍薬3g
+枳実2g+大黄1g+大棗3g+生姜1g
なんて薬もあります。漢方薬の名称上の「大・小」は身体への
影響力により使い分けられますので、この8番の方が9番よりも
影響が大きいということになりますが、それは大黄(ダイオウ)が
配合されていることに起因します。大黄は下剤成分を含むので
少量であっても身体に変化を来しやすいということでしょう。
芍薬+枳実(キジツ)+大黄とすることで腹痛や便秘に効能を発揮
しますから、9番の守備範囲を広げた薬、と見る事もできます。
敢えて8番から大黄だけを抜いた「大柴胡湯去大黄」なんて
のも保険漢方薬であります。ウチでは採用してませんが。
柴胡剤はまだ重要処方があるので、次回も柴胡剤の中から紹介
したいと思います。あ、次回予想してた人、すんません。あ、
そんな奇特な人いないか。(笑)