今回はややマニアックな2作品。ただマニアックと侮るなかれ、
今年の邦画を代表する映画になるかも知れませぬ。
まずは「教誨師」。「きょうかいし」と読みます。今年2月に急逝
した大杉漣さん主演の映画です。奇しくも遺作となりました。教誨
とは受刑者に罪と向き合うために教え諭すことで、それを行う人の
ことを教誨師と言うのだそうです。何らかの宗教者であることが多く、
今作ではキリスト教の教誨師を大杉さんが演じています。
大杉さんの遺作とは言っても偶然そうなっただけで、製作サイドと
しても参加していたご本人は3部作で作製するつもりもあったよう
です。そして、それくらい、濃い、です。遺作補正がかかって鑑賞
する人も多いかも知れませんが、そうでなくても傑作だと思います。
罪に対する罰、死刑制度、生へ執着、宗教の意義、など実に多くの
問題提起をしているにも関わらず、煩くない。殺風景な舞台なので
却って演技が濃密に感じられ主演の大杉さんだけでなく皆さんが
素晴らしい。この際、遺作補正であってもいいから口コミで広がって
多くの方に観て欲しい作品です。
そして「カメラを止めるな!」第2弾の呼び声高い、口コミで評価
が拡散しているアニメ映画「若おかみは小学生!」です。もう既に
上映館が減っていますが、実は一旦上演頻度が減って人気と共に復活
した希有な例でもあります。
不慮の事故で両親を亡くした主人公の少女が実家の温泉旅館の女将と
なる成長物語ですが、絵柄がかわいすぎるしタイトルが口に出しづらい
くらい軽いし(笑)、挙げ句幽霊が出てくるし(しかも極めて重要)で
まあ確かにあまり観ようとは思いませんわ。いやしかし。これまた
様々な問題を内包しており、かつ完成度がびっくりするほど高い。
幽霊の役目や、登場人物の必然性、そして小道具の正確さなど脚本
演出のウデに唸りました。
元は令状ヒロ子さん原作の児童書なので、まあ絵柄は仕方ないですよ。
それを脚本・吉田玲子さん、監督・高坂希太郎が見事に昇華させました。
最近歳のせいで涙腺がゆるいのか、涙なしでは観られませんでした。(泣)
あまりに邪気がなさ過ぎるのも難点と言えば難点ですが、真正面から
「死」を扱った誠実な作品だと思います。
今回は実写とアニメ、静と動、老と若、など偶然にも対比的な2作品
ですが、偶然にもテーマは「死」です。大杉さんが死して「死」の傑作
を遺したのは奇跡と言えるかも知れないですね。色んな意味で感動です。