6回目に取り上げる漢方薬は五苓散です。知る人ぞ知る、というか
ここでも何度も紹介しいるので御存知の方も多いかと思います。
めまいや頭痛の薬として有名ですが、前回紹介した苓桂朮甘湯と
どう違うのでしょうか?
・五苓散(ゴレイサン 17番)
構成:桂皮1.5g+茯苓3g+沢瀉4g+猪苓3g+蒼朮3g
苓桂朮甘湯は茯苓+桂皮+蒼朮+甘草でしたから、甘草を除いて
沢瀉(タクシャ)と猪苓(チョレイ)を足した形になります。沢瀉、猪苓
共に水分調整に働く生薬なので、より水の巡り改善に特化して
いると分かります。茯苓以下の4種類で四苓湯(シレイトウ)と言うん
ですが保険薬にはありません。五苓散ではわざわざ水分調整作用の
ない桂皮を足していることになります。つまり五苓散のカギは実は
桂皮なんですね。前回紹介した通り桂皮+茯苓には “降下” 作用が
あります。四苓湯に桂皮を足すと言うことは五苓散の守備範囲は
上半身、特に頭部、ってことになるわけです。
気圧変動での頭痛やめまいは脳のむくみ、もしくは脳脊髄液の停滞
によるので五苓散がよく効くんです。飲酒後の頭痛も同様の病態
なので二日酔いに使用したりもします。僕もたまに、ええ、ゴニョゴニョ。
ただ乳幼児の急性胃腸炎などで嘔吐と下痢が激しい時、五苓散を
湯に溶いて肛門から挿入する注腸療法が結構効果あるので、上半身
に拘る必要はないと思います。
さて五苓散に似た薬に猪苓湯があります。
・猪苓湯(チョレイトウ 40番)
構成:猪苓3g+沢瀉3g+茯苓3g+阿膠3g+滑石3g
前半3つの生薬が共通ですね。後半の阿膠(アキョウ)は血流改善、
滑石(カッセキ)は抗炎症作用があり阿膠+滑石では止血効果も付加
されます。つまり猪苓湯全体としては水分代謝異常と出血傾向が
ある場合に有効、となります。これを利用して膀胱炎に使用される
ことが多いです。滑石は抗炎症のため冷やす効能があるので、
冷え症の人が常用するのは禁物です。もちろん膀胱炎は急性細菌
感染症ですので抗生物質が第1選択なのは言うまでもありません。
五苓散に比べると圧倒的に使用する機会は少ないですが、尿路感染症
が慢性化すると一転して抗生剤の連用が問題になるので、血流改善
部分を強化した猪苓湯合四物湯(チョレイトウゴウシモツトウ 112番)
なんて薬も一応用意されています。こういう工夫も漢方薬ならでは、
と言えると思います。