今年は映画レビューは控えめにしようかと考えていた矢先、
これはいけない。あまりにタイムリーな戦争映画、そして
とんでもない傑作映画です。マジか、84歳。
愛国心が強く、家族、国民を守るためテロに対して異常な
義憤を抱く戦士の物語。それを実現するだけの身体と狙撃
能力を備えているため、彼は戦地で数々の戦果を挙げ“伝説”
となってゆきます。しかしながら、戦争という非現実は確実
に彼の精神をむしばんでゆく…。ここまでは実際これまでも
題材にされたよくある展開。いわゆる戦争ジャンキーが日常
では受け入れられない切なさを描く類のものです。
本作が優れているのは主人公を英雄然としながらも、その
行為に疑問を投げかけているバランス感覚です。徹底的に
外敵と戦う姿は共感を呼びそうですが、ギリギリの所でそれ
を拒みます。特に凄腕ライバルスナイパーの自室に妻子と
おぼしき人物を登場させたのには背筋が凍りました。本作は
実話がベースで、実は主人公はもう亡くなっています。その
死因と無音のエンドロールにまた、背筋が凍ります。ついでに
そんなの関係ねぇ!とばかりに忙しなく席を立つ客や、
「これ故障じゃね?」と宣う客にも背筋が凍りました。(笑)
アルカイダやISのザルカウィと言った最近耳に馴染みの
ある単語も頻出して、この映画は極めて現実社会との関連が
深い作品です。ラストシーンは何と実際の映像です。急に劇場
から現実へと投げ出された感覚です。日本人捕虜の殺害、集団的
自衛権、難民受け入れ、などなど今まさに直面している問題
とも地続きだと言っていいでしょう。僕たちは戦争をやめられる
のでしょうか?
さておき、主演のブラッドリー・クーパーさんは見事でした。
僕はコメディ作品での彼しか知らないので、だいじょぶ?と
思ってたけど、もの凄い役作りをしたそうで、実際の主人公の
家族や友人からも絶賛されたそうです。そしてやはり、御年
84歳のクリント・イーストウッド監督。歳は関係ないかも
知れませんが、ここまでの完成度の映画を作り上げるのは
相当のエネルギーを要するはずです。彼もまた“伝説”でしょう。
いやはや、ばけもんや。