「不定愁訴」は医療関係者なら一度は耳にしたことがある
はず。そして患者さんの耳には入れたくない言葉でもある
はずですね。
愁訴とは苦しみや悲しみを訴えることで、不定とは一定
しないこと。つまり、本来「不定愁訴」は医療現場で
使用するなら「症状が一定しないこと」です。例えば、
前回受診時は腰痛を訴えていたが、今回はめまいを訴える、
のように来る度に症状が違うなんて具合です。けれども
実際には、ストレスフルで整合性のない神経症的な症状
をまとめて「不定愁訴」と表現していることが多いよう
です。
さらには検査で異常がないのに症状が強い、典型的では
ない、こんな理由で「不定愁訴」と扱われていることも
しばしば。こんなの冤罪以外の何物でもないし、言葉の
誤用甚だしいことこの上なし、なわけです。単に診断が
つけられないのを、「不定愁訴」だから「ストレス」
なので心療内科へ紹介、という診療は恥ずべきです。
ちなみに漢方薬の加味逍遙散という薬は、その名の通り
逍遙散に生薬を2つ加味したものですが、この「逍遙」
というのが症状が揺れ動く事を表しており、「不定愁訴」の
薬として有名なわけです。本来はイライラや不眠がメイン
の更年期症候群の薬、ではないんですねー。
それはさておき、この文章は「不定愁訴」を「自律神経
失調症」に置き換えてもそっくりそのまま成り立ちます。
診断名を付けないと保険診療が成り立たない日本の医療の
負の側面の一つです。