スターが必ずしも名監督になるわけではない、というのは映画界でも
プロ野球界でも言えることですが、今回は日米の名優が監督した作品が
偶然にも同時期に公開されたので比べてみました。
まず日本。水谷豊さんが40年も温めていたネタを、満を持して作製
したという「TAP-THE LAST SHOW」。人気絶頂のタップダンサー
が事故を契機にどん底を味わうが、親友の誘いから才能ある若者を
プロデュースして最後のショーを手がける、という、まあ何というか
40年温めていただけあって40年前にやっておけば良かったんじゃ?
と思わせるようなストーリー。(^ ^;)
古いものが悪いなんてことはないんだけど、さすがにもう少し現代に
寄せないと現実味がなくなってしまう。ダンスシーンがメインなので、
本作はホンモノのダンサーが俳優をしてる都合上、演技には目をつぶってね、
その代わり周りを実力派俳優が固めるから、という布陣なわけですが
個人的にはその周辺俳優さんの大袈裟で古くさい演技がむしろ邪魔
だったかな。決してダンサー達は下手ではなかった。和製「セッション」
なんて紹介されてたりするけど、それは恥ずかしいから言わない方が
いいでしょう。
結構なディスりようですが(笑)、ラストのダンスシーンは圧巻です。
ホンモノ達のめくるめく情熱的なタップダンスは驚きと感動に満ち
ています。このシーンに説得力を持たせるために強引な演出を重ねた
のだな、と最後にやっと少し同情できました。映画としての完成度は
低いですが、水谷豊さんの情熱は感じられる一品です。
対して「ハクソー・リッジ」はメル・ギブソンさん監督の実話ベース
の戦争映画です。監督業が初めての水谷さんと比べるのは酷ですが、
相当な傑作です。主人公は絶対に武器を持たないという信念のもと、
衛生兵として75人もの負傷者を救った実在の人物。劇中、上官や
同僚に「武器を持たず、愛する者が攻撃されたらどうするんだ?」と
再三責められます。まさに日本における自衛隊に突きつけられる疑問
に重なります。
この問いに明確な答はありませんが、戦争映画史上でも屈指の戦闘
シーンがその答を示唆しているようにも思えます。とにかく、凄まじい。
スプラッタやホラー顔負けの戦場の現実を首根っこをつかまれて
見せつけられます。そしてこの戦場の現場が沖縄なんですね。なにか
監督の秘めたメッセージを感じずにはいられません。
表面的には実在した英雄の伝記というテイですが、その実、大変に
強烈な現代の我々が置かれた国際的問題への提言のような映画です。
いやあ、すげーもん観た。狂気最高潮で最終兵器な彼(笑)がよもや
こんな映画を作るとはねぇ。恐れ入りました。