院長室

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「記憶にございません!」/「アド・アストラ」

大門未知子ばりに映画で失敗したくない僕は、結構事前リサーチを怠りません。

今回は、そんな僕が予告の段階で既に絶対に観る!と決めていた2作品です。

 

まずは御存知、三谷幸喜監督の新作「記憶にございません!」です。記憶を

失ってしまった嫌われ者の総理大臣が巻き起こすコメディ。いや、コレ最高

じゃん。一部では、現政権への風刺だとか、リアリティに欠ける、と言った

ピントのずれた批評がありますが、風刺も非現実性もまさにコメディの

醍醐味なんですよ。三谷作品に何を求めているんだか、と言いたくなりますが、

そういう点でもまさに本作はザ・喜劇です。

 

もう問答無用でお勧めですが、特に主演の中井貴一さんが素晴らしい。草刈

正雄さんや佐藤浩市さんといった邦画界の雄との共演にも負けていないどころか

抜きん出てますね。やや大袈裟に感じる演技はTVドラマでは時代劇くらいが

適当に感じますが、映画ではもう水を得た魚の如く楽しげに(?)泳いでいます。

こういう俳優さんを映画スターって言うんでしょうね。その妙技をぜひ劇場で

確認し爆笑して下さい!

 

さて、ブラッド・ピット主演の宇宙モノと聞いただけで体温が1℃くらい上昇し、

冷え症の治療に応用できるんじゃないかと興奮を抑えきれず鑑賞した「アド・

アストラ」ですが。

 

タイトルはラテン語で、英語では「to the stars」(=星の彼方へ)みたいな訳と

なります。原題そのままです。これは英断。この言葉は様々な場面で使用されて

いて「困難を伴う行程」というニュアンスも含みます。地球規模の電気トラブル

が海王星からの電気サージによるものと判明するも、これが16年前に消息を

絶った主人公の父親を隊長とする調査団に関係しているかも、しかも彼は生きて

いるかも、じゃあ主人公に火星からメッセージを送らせようぜ、というストーリー。

 

これだけ見ると、確かに困難な感じはあるものの、苦難を乗り越えて父と再会を

果たすSFアドベンチャーか?体温爆上げだぜー!(しつこい)と思いますが、

全然違いました。オラ、わくわくすっぞ!的展開はわずかで、本態は多分に

内省的な人間ドラマです。宇宙の無音、無機質、無慈悲さも助け、どちらかと

言うと静かな映画です。実際の行程よりむしろ主人公の内面的な成長に必要な

「困難さ」が丁寧に描かれます。

 

いやしかし、その主人公を演じるブラッド・ピットが神懸かってます。居るだけで

存在感があるのは昔からですが、そういうオーラを消しつつ地味な演技で2時間

惹きつける、ってのはもう離れ業でしょう。特に最後のシークエンスはそれまで

静かだったせいもあり、ワンカット、一言、がとても重厚です。エエもん観たよ。

映像もとても素晴らしく、ごく近い未来という設定を損なわないメカたちも地味に

良い。何より、これがジェームズ・グレイ監督のオリジナル脚本ってとこが

一番素晴らしい。

 

かたや腹を抱えて笑えるほっこりコメディで、一方は深い余韻を残す人間ドラマ、

どちらも掛け値なしに面白いので、是非両方鑑賞してみて下さい。正反対の

ような作品ですが、監督のオリジナル脚本で主演が超上手い、という共通点が

あります。リメイクや漫画の映画化を数字の取れる俳優で、という企画の多い

昨今、こういう映画作りは好感が持てます。(^ ^)

2019年9月26日 木曜日

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