院長室

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漢方薬解説-10 当帰芍薬散

漢方薬解説も10回目となりました。今回は第7回で紹介した

桂枝茯苓丸(25番)と対比されることの多い当帰芍薬散です。

これもまた婦人科疾患専用の漢方薬のように宣伝されますが…。

 

・当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン 23番)

構成:当帰3g+芍薬4g+川芎3g+蒼朮4g+沢瀉4g+茯苓4g

 

一般的に知られる効果効能は25番と同じく、生理の不調や

更年期にまつわる諸症状に対してです。ではどう使い分けるかと

いうと、25番ががっちり体型イライラタイプで23番は

やせ型で冷え乾燥タイプ、だそうです。漢方を学びはじめの頃は

僕もそう教わりました。でもこういう使い分けはやめた方が

いいです。

 

生薬構成から見ると6つの生薬のうち前半の3つは補血薬で

後半の3つは利水薬です。つまり貧血傾向でむくみやすい方に

適応があるということです。25番は “気を降ろし” て “血の

滞りを解除する” という構成でした。これらの症状は併存し

得ます。上述のような使い分けだと「23番 or 25番、さあ

どっち!?」(笑)みたいなことになりがちですが、全ての

症状を有していれば併用した方がいいわけです。

 

確かにどれも女性に多く出現する症状ではありますが、だから

と言って女性専用薬ではないですし、ましてや23番と25番

を相対させる意味はあまりありません。実際に脳出血では脳が

虚血になりむくみます。この程度によって後遺症にも差が出ます

から、初期治療に23番+25番というのは大いにアリです。

 

当帰(トウキ)と川芎(センキュウ)は共に血を巡らせて下腹部痛を

取るという効能のためよくセットで用いられます。この23番

もそうですが、代表となる漢方薬が四物湯です。

 

・四物湯(シモツトウ 71番)

構成:当帰3g+芍薬3g+川芎3g+地黄3g

 

23番の前半3つに地黄(ジオウ)を加えた構成です。地黄も

補血作用があるので、71番は補血薬だけで構成されることに

なります。皮膚の乾燥や四肢の冷えなども血の巡りの悪さと

捉えるので、71番は様々な漢方薬に配合されています。ただ

地黄は胃部不快も出やすいので投与は少し慎重になるべきです。

23番は71番から地黄を抜いて利水薬と合体させている、

と解釈することもでき、使いやすくするために先人が工夫した

のかな、と思いを馳せたりもします。

2020年4月6日 月曜日

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漢方薬解説-9 薏苡仁湯

ウチで頻用している漢方薬です。その割にはあまりメジャーに

ならないので、僕の力不足を感じる次第でもあります。(笑)

薏苡仁(ヨクイニン)は水イボに使う、なんて言われているので皮膚

の漢方薬のように思われますが、全く違います。その構成を見て

みましょう。

 

・薏苡仁湯(ヨクイニントウ 52番)

構成:薏苡仁8g+麻黄4g+芍薬3g+甘草2g+蒼朮4g+当帰4g+桂皮3g

 

さあ、いかがでしょう?結構これまでに紹介してきた生薬の知識で

読み解くことができる構成になっています。薏苡仁+麻黄は関節炎

などに使いました。(麻杏薏甘湯)芍薬+甘草も筋肉の張りに

使いましたね。(芍薬甘草湯)そして蒼朮はむくみのある痛み

に使いました。(桂枝加朮附湯)ついでに桂皮+麻黄は発汗解熱

作用を有しました。(麻黄湯

 

当帰(トウキ)以外はこれまで解説してきた痛み関連の生薬を合わ

せたような構成になっているのが分かると思います。あまり良い

言い方ではないですが、痛みの“オールラウンダー” とでも言える

でしょうか。これに附子末を追加すればさらに…。当帰は血流

改善効果があるので、間接的に鎮痛に寄与します。

 

もちろん麻黄や甘草の過量には留意せねばなりませんが、僕が頻用

する理由がこのバランスの良さです。医師向けの雑誌インタビュー

なんかで「好きな処方はなんですか?」なんてショーモナイ質問を

されたりするんですが(^ ^;)、「そんなんねーし」と答えるのも

大人げないので宣伝も兼ねて薏苡仁湯を挙げることにしています。

 

ではこの全方位型の鎮痛処方が効かなかったらどうするのか。漢方

なんて効かねーじゃん、ではなくて「普通の痛みではない」と捉える

のです。例えばストレス絡みだったり、循環不全だったり。ここで

「気血水」という概念が登場するんですね。もちろんその処方も

用意されていますので、痛みをふるいに掛ける、という意味でも

広く使用されるべき処方かなと思います。

 

さて、我々の永遠のアイドル(?)志村けんさんのコロナウィルス

感染が報道されました。年齢的に高齢者の域ですので重症化しない

ことを祈るのみです。すっかり良くなって「だいじょぶだぁ」と

かまして欲しいです。

2020年3月26日 木曜日

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漢方薬解説-8 桂枝加朮附湯

直接痛みに対抗する漢方薬として比較的メジャーな処方です。

もちろん、どんな痛みにも効くわけではありません。この処方が

得意とする痛みとは…?

 

・桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ 18番)

構成:桂皮4g+芍薬4g+甘草2g+大棗4g+生姜1g

+蒼朮4g+附子0.5g

 

上段は桂枝湯(ケイシトウ 45番)です。桂枝湯に蒼朮と附子を足して

いるのでこの命名となっています。処方解説2回目で紹介した葛根湯

も桂枝湯に麻黄と葛根を足した構成でしたね。45番流に言えば

葛根湯は「桂枝加麻葛湯」とでも言い換えられるでしょうか。

 

と言うことは、この処方の個性は蒼朮(ソウジュツ)と附子(ブシ)で、

まさにこの2つに鎮痛効果があるのです。蒼朮は水分バランスを

調整し、附子は温める効果が強いです。なので、桂枝加朮附湯が

威力を発揮する痛みはむくみや冷えがある場合となります。逆に

関節が赤く腫れて痛いとか、熱感のある場合は使ってはいけません。

風呂に入ると痛みが楽になるとか、夕方になると足がむくんで

痛む、という場合が適応となります。

 

附子には嘔気や動悸といった副作用もあり得るので、一応少量から

始めるのがベターです。桂枝加朮附湯に0.5gと少量であるのは

このためです。問題が無ければ附子の粉末が単独で処方できるので、

寒い季節は追加することが多々あります。

 

この蒼朮+附子を配合している漢方薬は他にもあります。

・真武湯(シンブトウ 30番)

構成:茯苓4g+芍薬3g+生姜1.5g+蒼朮3g+附子0.5g

 

5種類の生薬構成ですが、実に4つが18番と同じです。茯苓

(ブクリョウ)が配合されている分、より水分代謝改善効果が高い処方

です。一般には下痢の薬なんて思われていますが、構成から見れば

痛みに使えますね。18番と近似構成なので合方にも向いています。

 

冬になると痛みが強くなる、あるいは夏場でも冷房で悪化する、

なんて場合は西洋薬の痛み止めは冷やす作用があるため不向きです。

そうなると18番+30番の独壇場です。それほど飲みにくくない

ので患者さんにも嫌われず(笑)、重宝しています。

 

それはそうと、昨日配信された「ルミネtheよしもと配信寄席」

徳井さん復帰後初舞台となったチュートリアルの漫才は泣けた。

期間限定配信らしいので、今のうちに是非!(^ ^)

2020年3月16日 月曜日

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漢方薬解説-7 桂枝茯苓丸

漢方薬紹介にも徐々に馴れてきて頂けてますか?漢字ばっかで

しんどいかも知れませんが、何卒よろしく。(^ ^)7回目となる

今回は女性の更年期など婦人科領域で頻用されている桂枝茯苓丸

です。でも婦人科ではないウチでもものすごく使ってます。なぜ?

 

・桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン 25番)

構成:桂皮3g+茯苓3g+芍薬3g+牡丹皮3g+桃仁3g

 

5種類の生薬から成るシンプルな漢方薬です。名前にある桂皮と

茯苓の組合せはこれまで苓桂朮甘湯(39番)と五苓散(17番)

でも登場しましたね。“降下作用” があるので上半身や頭部の症状

に有効でした。芍薬には筋肉のこわばりを取る作用がありました。

 

とすると牡丹皮(ボタンピ)と桃仁(トウニン)が更年期に効くの?と

思われるかも知れませんが、そうでもないんです。そもそも両者共

に下腹部痛に対する薬で外科的手術が一般でない時代は虫垂炎にも

使用されていました。婦人科領域では月経痛ですね。桃仁は少し

便を軟らかくする作用もあります。

 

つまり、桂皮+茯苓でのぼせやめまいを、芍薬が肩こりなどの筋肉

の痛みを、そして牡丹皮+桃仁が下腹部の諸症状を緩和するので、

これらが高頻度に見られる女性の更年期に頻用される、というわけ

です。決してホルモン剤ではありませんし、これらの症状があれば

男性でも適応になります。

 

また、牡丹皮+桃仁には血液の滞りを解消するという作用もある

ので、打撲や捻挫など整形外科領域でも使用頻度が高いんです。

さらに慢性の疼痛でも大なり小なり循環不全があるので、応用的に

使用されます。漢方薬の拡大解釈は誤用につながるので、症状

だけで決めてはいけませんが。

 

ちなみに桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン 125番)

が皮膚のシミの漢方薬、なんて宣伝されたりしますが、その名の

通り桂枝茯苓丸に薏苡仁を加えただけなので、基本は桂枝茯苓丸

の適応を守るべきです。薏苡仁が昔から水イボなんかに使用

されてきたので皮膚科の漢方薬のように扱われますが、これも

誤用に繋がるのでシミ=125番とは覚えないように。

 

漢方薬解説の記事は通し番号をふって、タグを付けました。記事

の下段にあるタグをクリックすると漢方薬解説だけが表示されます

ので過去記事を参照する時に利用してください。軽い気持ちで

映画記事にもタグ付けしたらどえらい時間かかった。きっと需要

なんてないのに。(^ ^;)

2020年3月5日 木曜日

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漢方薬解説-6 五苓散

6回目に取り上げる漢方薬は五苓散です。知る人ぞ知る、というか

ここでも何度も紹介しいるので御存知の方も多いかと思います。

めまいや頭痛の薬として有名ですが、前回紹介した苓桂朮甘湯と

どう違うのでしょうか?

 

・五苓散(ゴレイサン 17番)

構成:桂皮1.5g+茯苓3g+沢瀉4g+猪苓3g+蒼朮3g

 

苓桂朮甘湯は茯苓+桂皮+蒼朮+甘草でしたから、甘草を除いて

沢瀉(タクシャ)と猪苓(チョレイ)を足した形になります。沢瀉、猪苓

共に水分調整に働く生薬なので、より水の巡り改善に特化して

いると分かります。茯苓以下の4種類で四苓湯(シレイトウ)と言うん

ですが保険薬にはありません。五苓散ではわざわざ水分調整作用の

ない桂皮を足していることになります。つまり五苓散のカギは実は

桂皮なんですね。前回紹介した通り桂皮+茯苓には “降下” 作用が

あります。四苓湯に桂皮を足すと言うことは五苓散の守備範囲は

上半身、特に頭部、ってことになるわけです。

 

気圧変動での頭痛やめまいは脳のむくみ、もしくは脳脊髄液の停滞

によるので五苓散がよく効くんです。飲酒後の頭痛も同様の病態

なので二日酔いに使用したりもします。僕もたまに、ええ、ゴニョゴニョ。

ただ乳幼児の急性胃腸炎などで嘔吐と下痢が激しい時、五苓散を

湯に溶いて肛門から挿入する注腸療法が結構効果あるので、上半身

に拘る必要はないと思います。

 

さて五苓散に似た薬に猪苓湯があります。

 

・猪苓湯(チョレイトウ 40番)

構成:猪苓3g+沢瀉3g+茯苓3g+阿膠3g+滑石3g

 

前半3つの生薬が共通ですね。後半の阿膠(アキョウ)は血流改善、

滑石(カッセキ)は抗炎症作用があり阿膠+滑石では止血効果も付加

されます。つまり猪苓湯全体としては水分代謝異常と出血傾向が

ある場合に有効、となります。これを利用して膀胱炎に使用される

ことが多いです。滑石は抗炎症のため冷やす効能があるので、

冷え症の人が常用するのは禁物です。もちろん膀胱炎は急性細菌

感染症ですので抗生物質が第1選択なのは言うまでもありません。

 

五苓散に比べると圧倒的に使用する機会は少ないですが、尿路感染症

が慢性化すると一転して抗生剤の連用が問題になるので、血流改善

部分を強化した猪苓湯合四物湯(チョレイトウゴウシモツトウ 112番)

なんて薬も一応用意されています。こういう工夫も漢方薬ならでは、

と言えると思います。

2020年2月20日 木曜日

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