前回、「冷やす」効果がある柴胡と「温める」効果のある桂皮
は逆の作用である、と書きました。鋭い方は疑問に思ったかも
知れません。12番にも桂皮は配合されていますからね。ここ
は漢方薬を理解する上で混乱する部分になり得ますが、逆の作用
だから併用しない、わけではないんですね。と言うのも生薬の
効能は一つではないから。別の効能を利用したくて配合している
ことは多々あります。今回紹介する漢方薬も柴胡と桂皮が併用
されている処方になります。
・柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ 10番)
構成:柴胡5g+黄芩2g+半夏4g+人参2g
大棗2g+甘草2g+生姜1g+桂皮2g+芍薬2g
小柴胡湯(9番)に桂皮と芍薬を追加した処方です。何か目的が
あって追加した、と言うよりこの処方の下段は桂枝湯(45番)
なので、9番と45番を合体させた、と見る方がよいです。
どちらも風邪の時に使用される処方で、悪寒、発熱などの初期
に45番、解熱傾向だが悪心や咳が残る時に9番、と経過の中
で使い分けられてきました。10番は両方を配合しているので
その中間の時期、と考えれば良いわけです。
もちろん柴胡には「緊張緩和」作用がありますから、風邪とは
関係なく桂皮で「気を降ろし」芍薬で「筋をほぐす」と解釈
してイライラがあって筋がこわばる場合に使ってもOKです。
さて、重要柴胡剤がもう一つあります。見てみましょう。
・柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ 11番)
構成:柴胡6g+黄芩3g+栝楼根3g+牡蛎3g
+桂皮3g+甘草2g+乾姜2g
名称からは10番に乾姜(カンキョウ)を追加した薬?と思いがち
ですが、もう9番ともかけ離れた構成になっています。(^ ^;)
柴胡+黄芩を核としているのは不変で、そこに12番にも配合
されていた牡蛎(ボレイ)と桂皮があるので「理気剤」として
運用することを目指しているのが分かります。事実、この処方
はイライラや不眠、音や臭い、光への過敏状態などによく使用
されます。
では栝楼根(カロコン)と乾姜の配合目的は何でしょう?栝楼根は
「潤す」作用があり乾姜は「温める」作用があります。つまり
これは柴胡の副作用対策なんですね。柴胡は緊張を緩和し炎症
を抑える効果があり重宝しますが、反面身体を冷やしたり乾かし
たりしてしまうので運用にコツがいるのでした。その負の側面
を他の生薬で相殺しているわけです。乾燥や冷えを訴える場合
には一石二鳥ですね。配合の妙に感心します。
3回にわたり柴胡剤を紹介してきましたが、小柴胡湯(9番)
を中心に8番と12番はその効果や範囲を拡げる処方、今回
紹介した10番と11番は柴胡の弱点を補う処方、と捉えると
整理しやすいと思います。柴胡剤が理解できるようになることは、
漢方薬を生薬で考えられている、と言えますし、逆に生薬を
考慮しないと柴胡剤は理解しにくい、と言えます。