院長室

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漢方薬解説-19 補中益気湯

今回は、前回紹介した十全大補湯(48番)と双璧をなす

参耆(人参+黄耆)剤である補中益気湯です。こちらも非常に

有名な漢方薬ですが、48番と双璧をなすからなのか、

今ひとつ使い分けがしっかりなされていない側面もあります。

構成を見てみましょう。

 

・補中益気湯(ホチュウエッキトウ 41番)

構成:人参4g+蒼朮4g+甘草1.5g+大棗2g+生姜0.5g

+柴胡2g+当帰3g+陳皮2g+黄耆4g+升麻1g

 

上段はほぼ四君子湯(75番)ですから、胃腸を助ける薬で

あることは間違いありません。48番と共通する部分ですね。

48番ではこれに四物湯と桂皮、黄耆が追加された構成に

なっていましたが、41番では下段が随分違います。ここが

分かれば使い分けも容易になります。

 

ここでポイントになるのが柴胡(サイコ)と升麻(ショウマ)です。

柴胡は抗炎症作用と理気作用がありました。そして升麻は

様々なものを “持ち上げる” 作用があります。と言うことは

41番の精確な適応は消化吸収能力が落ち、それに伴って

炎症がくすぶる、さらに “落ちている” 病態、となります。

具体的に言うと胃腸風邪などの感染症で食欲が戻らないとか、

食欲がなくて気分が落ち込む、なんて場合が良さそうです。

 

胃下垂や膀胱下垂、子宮下垂などの解剖学的病態にも使用

されますが、これは升麻が配合されるからで、やや拡大解釈

かも知れません。柴胡とのタッグを考えると、むしろ精神的

な落ち込みの方が効果が期待できるでしょう。ちなみに

参耆剤としては48番より高用量なので、胃腸症状に対する

効果は48番より優れています。

 

さて、41番を理解する上でもう一つ大事な視点があります。

それは「何が配合されていないか」です。これまでは構成生薬

そのものに着目して効能を理解するよう努めてきましたが、

配合されていないことの意味、というのもあるんですね。

 

41番で敢えて配合されていない生薬、それは桂皮+茯苓です。

これまで何度も登場した組合せですね。「気を降ろす」効能

がありました。これが升麻の効能とバッティングしてしまう

ため41番には入っていないわけです。と言うことは、41番

はめまいや嘔気には向いていない、とも解釈できます。

胃腸系の薬ではありますが、嘔気は適応外なんですね。

 

いかがでしょう?最後は少し難易度が高かったかも知れ

ませんが、処方の理解は構成生薬だけでなく、構成外生薬

からも攻める方が良いぜ、という好例です。頻用処方ほど、

より処方の意図を理解しておくと都合が良いです。(^ ^)

2020年7月13日 月曜日

カテゴリー 院長室

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スマホが与える影響

スマホやインターネットは、つい閲覧時間が長くなってしまいますね。

スマホやパソコンの長時間の使用が、なぜ身体に負担をかけるのか?

を東洋医学的にみてみます。

 

東洋医学の考え方のベースには、「陰陽」の考え方があります。

ざっくり説明すると、世の中のことは陰と陽の二つの性質に分けられ、互いがバランスを取ることで成り立っている、という考え方です。

 

陰と陽の分類は

陽…熱、火、上、昼、夏、動

陰…寒、水、下、夜、冬、静

などです。

 

例えば、

一日は朝→昼→夜と変化しますが、これは夜明けとともにだんだん陽の要素が多くなり、昼に陽がピークを迎え、夜にかけて陰が増えていく、というバランスをとっています。

一年は春→夏と陽が増え、夏至で陽のピークとなり、秋→冬とだんだん陰が増えていきます。そして、冬至で陰がピークとなり、また陽が増えていく…。

という感じです。

 

人も自然の一部と位置付けているので、身体も陰と陽のバランスが大切です。

現代の生活スタイルは、味の濃い食事、食品添加物、夜更かし、座位のPC作業が多い、空調…などの影響で陰陽のバランスを崩しやすく、陽に傾きやすい(陽>陰)傾向にあります。

 

この環境で、スマホ・パソコンを長時間見るとどうなるでしょうか?

目への光刺激は、神経をたかぶらせます。

神経がたかぶっている状態は、「静」ではなく「動」の状態ですから、「陽」です。

 

現代の生活スタイルは、すでに身体が陽>陰の状態になっています。この状態で、さらに陽の状態になることをするわけですから、バランスはさらに陽>陰に傾いてしまうわけです。

 

ですから、いかに陽の要素を加えないか、が養生のポイントになります。

とくに夜寝る前にスマホを触る方は要注意。

 

夜は陰の時間帯ですから、ゆったり穏やかに過ごし、身体を陰の状態に傾けることで良質な睡眠を取ることができます。

寝る1時間前には、スマホを遠ざける習慣をつけていきましょう。

 

現代は、スマホと上手に付き合うことが健康の秘訣です。

2020年7月11日 土曜日

カテゴリー はりの部屋

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腹冷えにご注意!

この季節、意外と多い症状が便通異常です。どちらかと

言うと下痢が多いですが、便秘もあります。両方ある場合

もあります。それに伴う腹痛も。

 

その原因の多くは、暑さで冷たい物の摂取が増える、冷房

で腹が冷える、と言った低温によるものです。暑いからと

油断しているわけではないと思いますが、腸は冷えに

弱いんです。冷えで消化吸収能力が落ちれば下痢になるし、

腸の動きが悪くなれば便秘になるし。これに脱水が絡むと

症状は複雑化します。

 

この暑い最中に熱いものを摂れ、というのは拷問だったり

しますので(笑)、少なくともキンキンに冷えた飲み物

とか、冷房下に腹を出して寝る(^ ^;)とかを控えるように

しましょう。苦痛でなければ就寝中だけでも腹巻きをする

のが良いです。

 

腹の冷えは自覚するのが難しいですが、経験的に冷たい

ものや辛いもので腹を壊しやすかったり、最近食が細く

なっているような場合は要注意です。また1日中冷房が

効いた部屋で仕事をする人も留意すべきでしょうね。

食材ではサンショウやショウガが腹を温めますので、

ショウガ湯を飲んだり薬味を工夫したりするのは有用です。

 

もちろん、麺類などの糖質過剰はアドレナリン過剰を

招いて腸は冷え動きも悪くなるので御法度です。ましてや

凍らしたスポーツドリンクなんて恐ろしや。。。(笑)

 

さて、明日から実に5ヶ月ぶりの健康教室が再開となり

ます。来院時の検温や、マスク装着、僕のフェイスガード

など、少し物々しい雰囲気ではありますが、御協力を

賜れれば幸いです。久しぶりでモジモジしてても見逃して

やってください。(笑)

2020年7月9日 木曜日

カテゴリー 院長室

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「ANNA」/「ランボー ラストブラッド」

映画レビューファンの皆様、お待っとさんでした。やっと映画館

も解禁され、公開延期になっていた作品が見られるようになって

きました。早速いきましょう。

 

まずは久々リュック・ベッソン監督のアクション映画「ANNA」

です。美貌の女性暗殺者がキレキレの活躍を見せるという、もう

一つのジャンルにしてもいいんじゃね?と思えるくらい、つまり

勝ち目の薄い戦いを挑んできたわけですが、まあそこそこ良かった。

このジャンル(?)は徹底的にリアルで攻めるか、異能を咬ませて

ぶっ飛ばせるか、で分かれるところですが、今作は前者。前者の

場合、主演女優のアクションに説得力があるかがキモになるん

ですが、その辺が意外と良かったのですよ。

 

その大役を務めたのがサッシャ・ルスさん。モデル出身だけあって

スタイルは文句ナシ、長い手足を活かして派手にアクションを

こなすし、これまた意外に演技もお上手。この女優さんを堪能

するためだけに観てもよいレベルです。反面、男性陣の演出が

ポンコツでキリアン・マーフィーさんら名優の無駄遣いに感じる。

まあそれこそ近年のリュック・ベッソンテイストなんですが。

 

欲張ってドンデン返し風味を加味しているところが評価を分ける

かも知れません。純粋にアクションとリュック・ベッソン(笑)

を楽しみたい人にはこのひとひねりは余分かも。ひねりを排除

したとしても「レオン」や「ニキータ」に並ぶ作品ではないです

けど。自粛明けの助走にはいいんでないかな。(笑)

 

そして色んな意味で不安だった「ランボー ラスト・ブラッド」。

ランボーの第5作目です。何が不安だったかというと既に4作目

で完結した、風になっていたから。しかもそれなりに納得する着地

だったので、まさか続編はないだろうと思っていたんですね。しかも

副題の「ラスト・ブラッド」は第1作の「ファースト・ブラッド」に

対応するもので、完全に今回での完結を示唆してるやん!4作目

はまさかの無視なの?!ってなったわけでやす。

 

で、期待と不安が入り交じる中で鑑賞しましたが、結論から言うと

ジェイソン・ステイサム案件でした。え?分かりにくい?(^ ^;)

これ、ランボーでやる意味ある?!ってこと。ステイサム氏あたり

がやるヤツやん、と。あ、僕はステイサム好きです。

 

ランボー作品の軸は戦争では英雄視されたのに、戦後は一転

邪魔者扱いされるという悲哀と孤独です。まあ早々に第2作から

そのテイストは薄まったわけですが(笑)、今回完結編なのに

そのテーマがほぼない。折角見つけた心安らかな生活をブチ

壊されてサツガイしまくる異常にタフな爺さん、というスジ。

 

申し訳程度に戦争のトラウマを匂わせたり、グリーンベレーの

テクを駆使して数多のトラップを仕掛けたり、というのはまあ

ランボーだんだけど、それ以外があまりに雑すぎて途中でシラける

可能性があります。犯罪者の巣窟で銃に囲まれながら「娘を返せ!」

って、そりゃ無理っしょ。メキシコ国境を車でぶち破るなんて

単なる犯罪っしょ。…ってツッコミが入りまくります。まあ

ランボー好き以外が観る可能性は低いと思いますが、ランボー好き

だからこそ首を捻る、という映画でもあります。自粛明けの助走…

にもツライかな。(^ ^;)

 

どちらもオールドタイプなアクション映画で、何かぶちぶち文句

言ってますが、映画館で観られたのは素直に良かったです。残念

ながら新作の撮影が滞っているので、しばらくは新作上映数が

少ないままでしょうけど、それでもつい興奮してこういう駄文を

書いちゃうオジサンが居るわけで、業界挙げてこの苦難を乗り

切って欲しいです。(^ ^)

2020年7月6日 月曜日

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漢方薬解説-18 十全大補湯

今回も大変メジャーな処方の紹介です。最近では抗癌剤の

副作用に対して使用されたりとか、西洋医学の現場でも

積極使用されている漢方薬です。

 

・十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ 48番)

構成:人参3g+蒼朮3g+茯苓3g+甘草1.5g

+当帰3g+川芎3g+芍薬3g+地黄3g

+桂皮3g+黄耆3g

 

変なところで改行されている時は…お分かりですね?(^ ^)

そう、「十全」と言うだけあって10種の生薬から構成

されていますが、よく見ると実はこれまで紹介してきた

処方を合わせたものなんです。上段は四君子湯(75番)、

中段は四物湯(71番)です。75番は消化吸収を助け

元気を出させる薬で、71番は血を作り、血流改善に働く

薬でした。

 

つまり48番は消化器系と循環器系を守備範囲とする薬、

ということになります。食欲低下や疲れ、皮膚の乾燥、

冷えなどが適応になります。ちなみに中段までの構成を

八珍湯(ハッチントウ)と言います。保険薬にはないですが。

で、さらに下段の2つの生薬が追加されているので48番

は八珍湯加桂皮黄耆とも表現できますね。

 

その桂皮(ケイヒ)と黄耆(オウギ)ですが、それぞれは加温

作用と水分調節作用を有しますが、人参+黄耆はとても

相性が良く、人参の効果を高めます。この2つの生薬が

配合されている処方を一文字ずつ取って “参耆(ジンギ)剤”

と呼んだりします。48番は参耆剤の代表選手です。

 

桂皮が配合されることにより、苓桂朮甘湯(39番)が

内包されます。芍薬甘草湯(68番)もありますね。また、

完全ではないですが当帰芍薬散(23番)も入っています

ので、48番はめまいや筋肉の張り、むくみにも効果が

あります。一応地黄が配合されているので、胃腸に配慮は

必要です。

 

過不足なく広く効果範囲を得る美しい配合だと思いますが、

決して抗癌作用があるわけではないので、癌に48番!

とか、48番で免疫アップ!というのは拡大解釈です。

 

ちなみに十全大補湯の読み方ですが、“ダイホ” ではなく

“タイホ” ですのでご注意を。知らずに誤読するとちょいと

恥ずかしいよ。

2020年7月2日 木曜日

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