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漢方薬解説-30 総括

漢方薬の処方解説、今回で30回目となりました。数えて

みたら、メインの処方以外も含めると前回までで59処方に

なりました。だいたい保険で使用できる漢方薬の半数近くを

紹介したことになります。

 

残りの処方は、ほぼこれまでに紹介したものの応用であるか

超マニアックなもの(笑)なので、ここでの紹介は今回で

最後にしようと思います。

 

そもそも解説を始めたのは漢方薬を身近に感じてもらうため

でしたが、回数を重ねるごとに却ってとっつきにくくなった

かな、という反省があります。医療関係者を想定しても

いたので、専門的な用語が度々登場しましたからね。あ、

ハズレ回だったとか言わないで。(笑)

 

一番伝えたかったことは、生薬構成から考えれば漢方は別に

難しくない、いやむしろシンプルでっせ、ってことです。何か

不思議な薬でもなければ、体質改善薬でもありません。漠然

かつ漫然と使用しないための道標になっていれば嬉しいです。

 

そうそう、痩せる効果があるという防風通聖散って紹介して

ねーじゃん、って思われた方がいるかも知れませんが、ほい、

こちら。

 

・防風通聖散(ボウフウツウショウサン 62番)

構成:黄芩+甘草+桔梗+石膏+白朮+大黄+荊芥+山梔子+芍薬

+川芎+当帰+薄荷+防風+麻黄+連翹+生姜+滑石+芒硝

 

グラム数は面倒なので割愛しましたが、何と18種類もの生薬

で構成される漢方薬なんです。保険漢方薬の中では最多です。

と言うことはつまり効き所は多いけれど速効性はない、という

部類の薬です。また大黄+芒硝という下剤が配合されています

から、便秘の人にしか適応はありません。その他の生薬も

見たことがあるものが多いと思いますが、どれをとっても

痩せる効果を有するものはありません。これら18種の総和

として、内にこもったものを排出しやすくする、という性格

の薬なので、転じて肥満症に効果がある、となってしまって

いるだけです。本来は汗をかきづらく、むくんでイライラ

したり、気が塞いだり、腹が張って便通が悪い、という病態に

使います。やせ薬という認識で使うべきではありません。

 

とまあ、これで計60種類紹介したことになってキリが良い

ですな。(^ ^)もしかしたら今後、番外編みたいな形で

漢方薬の構成に触れることがあるかも知れないですが、その

時は、またおんなじこと言ってんなー、と笑ってください。

神回、にはならんと思うけど。(笑)

2020年11月16日 月曜日

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漢方薬解説-29 酸棗仁湯

漢方薬を不眠症に使用することはしばしばありますが、西洋薬

のように催眠作用があるわけではなく、“気” を緩める効能の

結果として寝付きが良くなったり、途中覚醒が減ったりします。

 

・酸棗仁湯(サンソウニントウ 103番)

構成:酸棗仁10g+茯苓5g+川芎3g+知母3g+甘草1g

 

生薬5種類のみのシンプルな構成なので、速効性が望めます。

主役である酸棗仁(サンソウニン)に緊張をほぐす作用があります。

「仁」という文字がある生薬は植物の種なんですが、種には

総じて潤す作用があり、酸棗仁も潤すことで緊張を緩めます。

と言うことは、緊張と乾燥が併存している場合によく効く、

ってことですね。

 

同じく、知母(チモ)や甘草にも潤す作用があり、また茯苓は

水分代謝を改善する作用がありました。川芎は血流改善の

生薬でしたね。緊張すると口が渇くことは日常的に経験され

ますが、それに加えて眠れない、なんて時に使用する漢方薬

ということになります。同じような効果効能を持つのが、

 

・甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ 72番)

構成:小麦20g+甘草5g+大棗6g

 

です。こちらも生薬3種類なので速効性が期待でき、また

全ての生薬が甘いので小児でも飲みやすく、重宝します。

子供の夜泣きや、癇癪なんかに使われてきました。実際、

子供が夜ちゃんと眠るようになってお母さんが楽になった、

なんてエピソードはよく聞きます。

 

副作用も無く、飲み易いので漢方薬の中では安心度が高い

部類なのですが、実は小麦(ショウバク)はその名の通りコムギ

なのでグルテンを含みます。つまりグルテンで不調を来す人

にはNGとなります。乳児の場合はそれが不明だったりする

ので、処方に少し躊躇してしまう薬でもあります。

 

以前紹介した「柴胡(サイコ)」という生薬もイライラなどを

抑えるので不眠症に応用されたりしますが、身体を乾燥

させるため酸棗仁とは逆の効能を持つことになります。併用

する際には知っておいた方がいいでしょう。また、睡眠薬は

通常眠前に服用しますが、漢方薬の場合はあくまで緊張を

緩める目的ですので、1日3回服用します。もちろんそれで

日中眠くなって仕事が手につかない場合は眠前でもいいです

けどね。(実話 ^ ^;)

2020年11月5日 木曜日

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漢方薬解説-28 小青竜湯

“花粉症の漢方薬” と名を馳せているのが小青竜湯です。市販

されているほど身近ですが、よくよく考えてみると漢方薬が

発明された時代に花粉症なんてありません。アレルギーという

概念だって無いはずです。ということは…?!

 

・小青竜湯(ショウセイリュウトウ 19番)

構成:麻黄3g+桂皮3g+芍薬3g+甘草3g

+乾姜3g+半夏6g+細辛3g+五味子3g

 

意外と構成生薬数がありますね。見落としてはいけないのが

麻黄+桂皮の組合わせです。これは麻黄湯や葛根湯の基本

骨格にもなっていた、「発汗して解熱させる」コンビです。

つまり19番は基本的には悪寒発熱に使用する風邪薬なん

です。

 

ではなぜ花粉症に有効なんでしょうか?生薬構成の2段目に

秘密がありそうです。半夏(ハンゲ)が6gと多いですが、この

生薬に咳を抑える作用があります。細辛(サイシン)五味子(ゴミシ)

にも鎮咳作用があります。ということは咳がメインの風邪に

適応ということになりますね。さらに細辛、乾姜(カンキョウ)

は温める効果が強く、半夏、五味子は水分代謝を調整する

作用もあります。ならば「冷え」と「水っぽい」ことが適応

に加わりそうです。

 

よく、水道の水みたいな鼻水によい、なんて言われますが

鼻水を止めるというより「冷えて透明な水が出る」ことに

対する効果の結果と言えるでしょう。ここが花粉症の症状に

偶然マッチした、というのが正解です。重要なのは冷え

の有無です。冷えを契機に症状が出る、でも構いません。

当然抗アレルギー効果はありません。また、

 

・苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ 119番)

構成:茯苓+杏仁+甘草+乾姜+半夏+細辛+五味子

 

なんてのもあり、7種の生薬のうち後ろ5つが19番と

同様です。かつ麻黄+桂皮を含みませんので悪寒発熱には

効果は無いですが、19番の特徴を引き継いでいるため

副作用で麻黄が服用できない人の咳や鼻汁に使ったり

します。ちなみに7種の生薬の一文字ずつをつなげた命名

となっています。

 

小青竜湯はあくまでこのような適応なので、花粉症=

19番では無効例が出てしまいます。例えば目の充血や

鼻づまりがメインでは適応外ですよね。有名処方とは言え

短絡的な使用は避けるべきです。

2020年10月26日 月曜日

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漢方薬解説-27 その他の補腎剤

前回、頻用処方の一つである八味地黄丸(7番)を紹介

しました。アンチエイジングの漢方薬、ではなく正確には

体内に水分を留める作用を有する薬であるともお伝えしま

した。この7番を代表するカテゴリーが「補腎剤」で、

まだ2種存在します。

 

・六味丸(ロクミガン 87番)

構成:地黄+山薬+山茱萸+茯苓+沢瀉+牡丹皮

 

・牛車腎気丸(ゴシャジンキガン 107番)

構成:地黄+山薬+山茱萸+茯苓+沢瀉+牡丹皮

+桂皮+附子+牛膝+車前子

 

今回分かり易くするためそれぞれのグラム数は省略して

います。構成を7番と比べてみると違いが一目瞭然です。

 

・八味地黄丸(ハチミジオウガン 7番)

構成:地黄+山薬+山茱萸+茯苓+沢瀉+牡丹皮

+桂皮+附子

 

87番は7番から桂皮と附子を抜いたもの、107番は

逆に7番に牛膝(ゴシツ)と車前子(シャゼンシ)を足したもの、

なんですね。そりゃ、同じグループになりますわな。

 

桂皮と附子はどちらも温める効果がありますから、それら

を抜いている87番は「水分が不足し冷えがない病態」に

適応となることが分かります。水分が足りないと身体を

冷ますことができなくなるので、逆にほてりを感じたり

します。いわゆる熱中症のような状態です。

 

107番に追加された牛膝と車前子はどちらも下肢の

むくみや血流を改善する効能があるので、7番の適応で

下肢に不調を感じる人向け、となります。整形外科領域

では腰部脊柱管狭窄症によく使用されますが、もちろん

7番の適応であることが大前提です。

 

ちなみに107番の命名は牛膝と車前子の頭文字を

7番の別名である腎気丸の前にくっつけただけです。

87番は7番から2つ生薬を引いているので正確には

六味地黄丸と言います。附子は温めるだけでなく鎮痛

効果もあるので、7番と107番は冷えると痛みが

出る場合にも良いですが、そもそも配合量が少ないので

冬場ではさらに附子だけ追加して処方することも多い

です。

 

以前、参耆剤というカテゴリーも紹介しましたが、

漢方薬を整理して理解する際には、カテゴリーごと

に特徴を覚えることも有用です。

2020年10月15日 木曜日

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漢方薬解説-26 八味地黄丸

漢方薬が宣伝される際に「高齢の方にも安全です」みたいな

言われ方をすることがあり、今回紹介する漢方薬も高齢者に

頻繁に処方されます。さらに、特に症状が無くても「アンチ

エイジングの漢方薬」、ってまた聞こえの良い売り文句も

散見されます。ホントか?!

 

・八味地黄丸(ハチミジオウガン 7番)

構成:地黄6g+山薬3g+山茱萸3g

+茯苓3g+沢瀉3g+牡丹皮2.5g

+桂皮1g+附子0.5g

 

その名の通り8種類の生薬で構成され、地黄(ジオウ)が主役

の薬です。上段の3種、地黄+山薬(サンヤク)+山茱萸(サンシュユ)

はどれも体内に水分を保持する効能があり、つまり体内の水分

不足の方に適応となります。我々の体は加齢によって生理的に

タンパク質不足になり、その結果脱水傾向になります。この

慢性脱水に対し上記3種が有用なので、あたかも若返り薬の

ように言われるのです。

 

ただこれは古来言われてきたことでもあり、現代人が曲解

しているというわけではありません。漢方理論の中では、

「腎」は生まれ持った生命力、という意味で7番にはその

「腎」を補強する効能があるとされてきました。この効能を

持つカテゴリーを補腎剤と言いますが、7番はその代表で

あり「腎気丸」という別名を持つ所以です。

 

まあでも現代医学に照らし合わせれば、若返り薬なんて

ものはあるはずもなく、また水分保持が主たる効能なので

あれば抗加齢というよりは、加齢による症状を緩和する、

という程度に捉えた方が正確でしょう。拡大解釈して処方

するのは避けるべきですが、何より7番の主成分である

地黄は実は最も副作用報告の多い生薬でもあるのです。

一番多いのは悪心です。

 

高齢の方は既に胃腸症状があったり、もとより消化能力が

落ちていたりするので、盲目的に7番を満量処方すると

意外と不調を訴えるケースがあるので注意が必要なのです。

ただ適応がバッチリ合うと思いもよらない効果があったり

するのもしばしば経験します。まあ最初の問診不足だったり

もするんですけど。(^ ^;)

 

7番の残りの生薬では附子(ブシ)が目を引きます。これは

温めながら鎮痛する効果を持つので、脱水傾向で腰痛持ち、

風呂に入ると楽、なんて場合も重宝します。こういう

ケースも高齢者に多いですが、もちろん若い方でもOK

です。その他の補腎剤も重要なので次回紹介します。

2020年10月5日 月曜日

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