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漢方薬解説-5 苓桂朮甘湯

漢方薬解説5回目は頭文字命名シリーズ(?)で苓桂朮甘湯を紹介

します。めまいの薬、として認知されていますが、さてその生薬構成

はどうなっているでしょうか。

 

・苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ 39番)

構成:茯苓6g+桂皮4g+蒼朮3g+甘草2g

 

厳密には頭文字ではなくなっていますが(^ ^;)生薬名を並べた

命名法の漢方薬の一つです。一番多く配合されている茯苓(ブクリョウ)

という生薬そのものにめまいを抑える効果があるのですが、桂皮

が“上から下に降ろす”効能を持つので茯苓+桂皮とすることで効果

が高まります。蒼朮、甘草も水分バランスを整える作用があるので

補助的に働きます。

 

非常にシンプルな構成なので速効性が期待でき、結構頻用されます。

まためまいだけでなく「頭部の水分代謝改善薬」と捉えて、耳鳴や

頭痛、さらにはイライラ・不眠に応用されたりもします。これも

降下作用のある桂皮が配合されているからこそです。

 

この薬の桂皮の代わりに乾姜(カンキョウ)を配合した薬もあるんです。

 

・苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ 118番)

構成:茯苓6g+乾姜3g+白朮3g+甘草2g

 

桂皮がないので頭部症状にはあまり適応はありません。茯苓が6g

ありますからめまいに効かないわけでは無いですけど、この薬の

キモは乾姜です。これは乾かしたショウガのことで非常に強い加温

効果があるので、一転して冷え症の薬となります。他の3生薬は

全て水分調整に働きますから「むくんで冷える」タイプによく効く、

ということですね。

 

保険適応病名に腰痛が含まれるため、痛み止めみたいなノリで

使用されることがありますが、上記タイプでなければ効果は期待

できませんし、そもそも4つの生薬に鎮痛効果はありません。

39番と118番では蒼朮と白朮という差もありますが、大差は

ないものの蒼朮の方は鎮痛効果があるため、腰痛に効かせるなら

白朮じゃ無くて蒼朮を用いるべきかな、とは思います。細かい

ですが。

 

では、めまいも冷えもむくみも痛みもある場合はどうしたら

良いか。そうです、合わせちゃいましょ。(笑)甘草が多くなり

ますが併用でも4gなので副作用は出づらいでしょうし何より

ほとんどの生薬がカブりますから生薬数が増えず速効性が維持

できる、というのがメリットです。生薬数が増えるほど速効性が

落ちますからね。生薬構成を知っていると合わせ技もしやすい

んですよ。

 

さあ、この流れで行くと次回の解説はアノ薬かなー、なんて想像

してもらうと楽しいかも。当たっても何も景品ないですが。(笑)

2020年2月10日 月曜日

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漢方薬解説-4 麻杏薏甘湯

4回目にしてもうマニアックな処方になりますが(^ ^;)、実は

ウチでは頻用している漢方薬です。関節痛や筋肉痛に有効だから

です。

 

・麻杏薏甘湯(マキョウヨクカントウ 78番)

構成:麻黄4g+杏仁3g+薏苡仁10g+甘草2g

 

お気づきの方もいるかも知れませんが、この漢方薬の名前は

構成する生薬4つの頭文字を並べたものです。そして前回紹介

した麻黄湯とは近似処方なんです。麻黄湯は麻黄+杏仁+桂皮

+甘草でしたから、桂皮が薏苡仁になっているだけなんですね。

 

生薬が一つ変わっただけで、風邪薬が鎮痛薬になるのですから

不思議です。というのも麻黄+桂皮では解熱作用がありますが、

麻黄+薏苡仁となると鎮痛作用が強くなるからです。このように

組合せで効能が変化するのも漢方薬の特徴です。ちなみに桂皮は

ないものの咽頭痛を抑える杏仁は入っているので78番が風邪

に使えないわけではありません。悪寒発熱と共に筋肉痛があれば

むしろ麻黄湯より良いかも知れません。

 

同様の構成の漢方薬がまだあります。

・麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ 55番)

構成:麻黄4g+杏仁4g+甘草2g+石膏10g

 

これも生薬の頭文字を並べた命名で麻黄湯の桂皮が石膏になった

だけです。しかし麻黄+石膏は水分を引き込む作用があるので

むくみが得意な薬に変わります。喘息に使用されることの多い

漢方薬なんですが、それは喘息発作時気道粘膜がむくむことが

あるからです。石膏は冷やす効果が強いので、麻黄同様、あまり

常用することはありません。冷やすことを利用して皮膚炎や

関節炎に使用することもあります。

 

この55番に桑白皮(ソウハクヒ)という生薬を足すと五虎湯

(ゴコトウ 95番)という薬になります。桑白皮も鎮咳の生薬

なので、より呼吸器症状の強い方向けになります。95番も

麻黄湯近似処方であることが分かりますね。麻黄は組合せに

よって効能が変化するので応用範囲が広いですが、副作用も

結構あるので過量は禁物です。関節痛と咳があるから78番+

55番で!なんてやると麻黄を8gも摂ることになるので危険

です。それを防ぐためにも生薬構成を知ることが大事なんです。

2020年1月30日 木曜日

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漢方薬解説-3 麻黄湯

漢方薬紹介3回目は麻黄湯です。インフルエンザの治療で使用

する機会があるので、比較的有名な処方です。

 

・麻黄湯(マオウトウ 27番)

構成:麻黄5g+桂皮4g+杏仁5g+甘草1.5g

 

非常にシンプルに4つの生薬のみで構成されています。一般に

構成生薬数が少ないほど速効性がありますので、風邪などの急性

疾患に使用する漢方薬は生薬数が少ないことが多いです。

 

葛根湯の中にも配置されていた麻黄+桂皮がメインにあります。

これは体表を温め発汗させて解熱を促す効能があるので、悪寒

発熱かつ汗がない、という病態が対象になりますね。葛根湯に

比べ麻黄、桂皮共に配合量が増えていますから、ここに注力

した処方であることが分かります。発汗過多に対する甘草も

ありますね。杏仁はあんずの種のことで、喉の腫れや咳を

収める効果がありますから、ノド風邪向きの処方というのも

分かります。

 

注意点は麻黄の量が結構多い、ということです。麻黄はエフェ

ドリンという成分が多く、これによって交感神経過緊張を招く

ことがあります。症状では悪心や胃部不快が多いですが、尿が

出にくくなったり、やたらまぶしく感じるようになる、なんて

こともあります。それに対抗する胃腸系の生薬は配置されて

いませんので、副作用が出たら速やかに中止すべき、ある意味

“攻め”の漢方薬です。もちろん常用はしません。

 

インフルエンザの流行期によく使用されますが、決して抗ウィルス

作用があるわけではなく、感染時の症状が麻黄湯の守備範囲に

一致している、というだけです。予防効果もありません。あまり

発熱がなく倦怠感が主のB型では麻黄湯の効果は薄いでしょうね。

逆に症状がマッチさえすればインフルエンザ以外の感染症に

だって効果はあります。

 

ちなみに麻黄湯と桂枝湯を半分ずつ混ぜて、胃腸に配慮できる

ようにし、麻黄量を抑えた処方があります。桂枝湯、麻黄湯

各半分ずつ、と言う意味で「桂麻各半湯(ケイマカクハントウ)」と言い

ます。素直なネーミングですねぇ。(笑)1袋の量も少なく

飲み易いのでウチでは結構使うことが多いです。

2020年1月23日 木曜日

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漢方薬解説-2 葛根湯

漢方薬紹介の2回目です。今回は落語のネタにもなっているほど

有名な葛根湯です。葛根湯を風邪薬として認識していますか?

はたまた肩こりの薬でしょうか?それも生薬の構成から見ると

腑に落ちると思います。

 

・葛根湯(カッコントウ 1番)

構成:

葛根4g+麻黄3g+桂皮2g+芍薬2g+甘草2g+大棗3g+生姜2g

 

上記の通り、葛根湯は7種類の生薬から構成されます。葛根湯の

効果はそれぞれの合算、ではあるのですが桂皮以降の5種類で

桂枝湯(ケイシトウ 45番)という薬になります。これが悪寒の

ある風邪の初期に使われるんですね。配合量は多少違いますが。

 

つまり葛根湯は桂枝湯に葛根と麻黄を加味した薬、と見ること

ができるわけです。麻黄は桂皮と組み合わさることで発汗作用を

強め、桂枝湯の効果を高めます。発汗させることで解熱させます

ので発熱時に使えますね。発汗し過ぎて脱水になることの予防策

として潤す効果のある甘草が配合されています。既に発汗がある

場合には使いにくい、というのも分かります。麻黄を中心に

据えた方剤を「麻黄剤」と呼んだりしますが、大抵は脱水予防

に甘草が併用されています。葛根湯も麻黄剤の一つです。

 

では葛根はどんな効果を持つのかというと、後頚部〜背部の鎮痛

です。これが肩こりに使われる所以です。さらに少量ではあり

ますが芍薬甘草湯(芍薬+甘草 68番)も配合されています

ので、鎮痛効果を高めることになっています。以上を考慮すると、

葛根湯が効く風邪は汗が出ていなくて、発熱悪寒があり、筋肉痛

や頭痛があるタイプ、ということになります。また、咽頭痛や咳の

生薬は配合されていないので、そういう場合は他の漢方薬にするか、

何か追加して対応することになります。どんな風邪でも効くわけ

ではないんですね。

 

ちなみに甘草+大棗+生姜の組合せは消化器系を助ける効果が

あるので、副作用防止の意味で様々な漢方薬に配合されています。

麻黄は過量になると胃部不快が出ることがあるので、葛根湯に

入っているのも頷けます。ちなみにちなみに、この麻黄の副作用

を嫌って桂枝湯に葛根だけ追加した桂枝加葛根湯という薬もあり

ます。これなら安全ではありますが風邪にはあまり効かなくなり

ます。ウチでは採用してませんが。

 

葛根湯の他にも桂枝湯からの派生処方は結構あります。それだけ

昔から重宝された薬だったんでしょうね。

2020年1月16日 木曜日

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漢方薬解説-1 芍薬甘草湯

最近の院長室が栄養療法に偏りつつあるのを少し反省して、

今年は漢方薬にもっと言及していこうと思います。かねてから

言っている通り漢方薬は生薬の集合体で、それぞれの生薬の

効果効能の合算がその漢方薬の効き所となります。つまり構成

する生薬の特徴を知ることが、漢方の効かせやすさに直結

するわけです。

 

まず今回は初回ということで一番シンプルな芍薬甘草湯を取り

上げてみます。カッコ内の番号は医療用エキス剤の番号です。

 

・芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ 68番)

構成:芍薬6g+甘草6g

 

ご存知、こむら返りの特効薬と言われている漢方薬です。その

名の通り構成生薬は芍薬と甘草のみ、という最もシンプルな

漢方薬です。こむら返りのみならず、筋肉のけいれんを止める

のに長けているので、寝違いやぎっくり腰、しゃっくりや

生理痛なんかにもよく使用されます。

 

ただ、この筋肉に対する効果を有するのは芍薬であって甘草

ではないんですね。ではなぜ甘草が入っているのか?がこの

漢方薬のポイントになります。甘草は咽頭痛の薬として使われて

きましたが、同時に身体を潤す効果があります。ゆえに

芍薬甘草湯には「身体を潤しながら筋肉の緊張を取る」という

処方意図があるのが分かります。ということは脱水に伴う筋肉

の痛みに有効、となります。運動後のこむら返りとか透析後の

痛みが最も良い適応になるわけですね。同時に甘草が過量に

なると潤しすぎることになり、むくみや高血圧といった副作用

が出るわけです。

 

高齢者は生理的に脱水傾向にあるので芍薬甘草湯がよく効く

場合は多いのですが、予防効果までは無いし、むくみや高血圧

の可能性があるので基本的には常用する薬ではありません。

 

このように漢方薬の効果も副作用も、構成生薬を知ることで

より明確になります。全部の漢方薬を紹介するのは無理ですが

(なんせ140種類以上ある ^ ^;)、使用頻度の高いものを

こんな風に紹介していこうと思います。

2020年1月9日 木曜日

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