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漢方薬解説-15 柴胡桂枝湯

前回、「冷やす」効果がある柴胡と「温める」効果のある桂皮

は逆の作用である、と書きました。鋭い方は疑問に思ったかも

知れません。12番にも桂皮は配合されていますからね。ここ

は漢方薬を理解する上で混乱する部分になり得ますが、逆の作用

だから併用しない、わけではないんですね。と言うのも生薬の

効能は一つではないから。別の効能を利用したくて配合している

ことは多々あります。今回紹介する漢方薬も柴胡と桂皮が併用

されている処方になります。

 

・柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ 10番)

構成:柴胡5g+黄芩2g+半夏4g+人参2g

大棗2g+甘草2g+生姜1g+桂皮2g+芍薬2g

 

小柴胡湯(9番)に桂皮と芍薬を追加した処方です。何か目的が

あって追加した、と言うよりこの処方の下段は桂枝湯(45番)

なので、9番と45番を合体させた、と見る方がよいです。

どちらも風邪の時に使用される処方で、悪寒、発熱などの初期

に45番、解熱傾向だが悪心や咳が残る時に9番、と経過の中

で使い分けられてきました。10番は両方を配合しているので

その中間の時期、と考えれば良いわけです。

 

もちろん柴胡には「緊張緩和」作用がありますから、風邪とは

関係なく桂皮で「気を降ろし」芍薬で「筋をほぐす」と解釈

してイライラがあって筋がこわばる場合に使ってもOKです。

 

さて、重要柴胡剤がもう一つあります。見てみましょう。

 

・柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ 11番)

構成:柴胡6g+黄芩3g+栝楼根3g+牡蛎3g

+桂皮3g+甘草2g+乾姜2g

 

名称からは10番に乾姜(カンキョウ)を追加した薬?と思いがち

ですが、もう9番ともかけ離れた構成になっています。(^ ^;)

柴胡+黄芩を核としているのは不変で、そこに12番にも配合

されていた牡蛎(ボレイ)と桂皮があるので「理気剤」として

運用することを目指しているのが分かります。事実、この処方

はイライラや不眠、音や臭い、光への過敏状態などによく使用

されます。

 

では栝楼根(カロコン)と乾姜の配合目的は何でしょう?栝楼根は

「潤す」作用があり乾姜は「温める」作用があります。つまり

これは柴胡の副作用対策なんですね。柴胡は緊張を緩和し炎症

を抑える効果があり重宝しますが、反面身体を冷やしたり乾かし

たりしてしまうので運用にコツがいるのでした。その負の側面

を他の生薬で相殺しているわけです。乾燥や冷えを訴える場合

には一石二鳥ですね。配合の妙に感心します。

 

3回にわたり柴胡剤を紹介してきましたが、小柴胡湯(9番)

を中心に8番と12番はその効果や範囲を拡げる処方、今回

紹介した10番と11番は柴胡の弱点を補う処方、と捉えると

整理しやすいと思います。柴胡剤が理解できるようになることは、

漢方薬を生薬で考えられている、と言えますし、逆に生薬を

考慮しないと柴胡剤は理解しにくい、と言えます。

2020年6月1日 月曜日

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漢方薬解説-14 柴胡加竜骨牡蛎湯

予告通り今回も柴胡剤の中から紹介します。柴胡剤は数種類

ありややこしいですが、基本的には小柴胡湯からの派生です。

小柴胡湯の効能を拡げるか、弱点を補完するか、です。今回

紹介する処方は前者です。

 

・柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ 12番)

構成:柴胡5g+黄芩2.5g+半夏4g+人参2.5g

+大棗2.5g+生姜1g

+桂皮3g+茯苓3g+竜骨2.5g+牡蛎2.5g

 

処方名が長く、構成生薬も比較的多いのでギョッとするかも

知れませんが命名は「小柴胡湯に竜骨と牡蛎を加えたよ」と

いう意味ですので恐れることはありません。構成の上、中段

が小柴胡湯、下段がこの処方で追加された生薬です。

 

加味された竜骨(リュウコツ)も牡蛎(ボレイ)も「気を緩める」

のが得意な生薬です。注目して頂きたいのはさらに「桂皮+

茯苓」も追加されていること。これ、何度も出てきた組合せ

ですよね。…よね?(笑)桂皮+茯苓は「気を降ろす」という

効能を持っていました。苓桂朮甘湯五苓散桂枝茯苓丸

に配合されていましたね。

 

竜骨+牡蛎で気を緩めつつ桂皮+茯苓で気を降ろすわけです

から、上半身、特に頭頸部の症状がターゲットなるわけです。

具体的にはイライラ、不眠、頭痛、肩コリ、眼の疲れなどです。

小柴胡湯が胸部周辺の症状を得意としていましたから、守備

範囲が拡がる感じですね。上記のような症状があると向精神薬

が処方されがちですが、その前にこの処方を試したいところ

です。

 

さて、紛らわしい名称の薬があります。

 

・桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ 26番)

構成:桂皮4g+芍薬4g+大棗4g+甘草2g+生姜1.5g

+竜骨3g+牡蛎3g

 

こちらは桂枝湯(ケイシトウ 45番)に竜骨と牡蛎を加えた薬

ですので、名前は似ていますが全然別ものとなります。竜骨と

牡蛎をわざわざ追加しているので、もちろん過敏緊張気味に

なっている人に適応があるのは間違いありません。12番

との違いは何と言っても柴胡+黄芩を含まないことです。

 

柴胡+黄芩は抗炎症作用があるので言ってみれば「冷ます」

薬です。これは冷え症の人には使いにくいですね。26番は

桂皮が配合されているので温める作用を有しますし、桂枝湯は

胃腸を整える薬でもあります。結果、竜骨+牡蛎を使いたい

過敏緊張気味の人で、冷えと胃腸虚弱がある場合が適応と

なるわけです。12番とは逆ですね。

 

ただ、だからと言って12番を “実証向け” 、26番を “虚証

向け” としてはいけません。あくまで症状と構成生薬とを

照らし合わせて選択すべきです。しかも、なんと次回もまた

柴胡剤チョイスです。

2020年5月21日 木曜日

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漢方薬解説-13 小柴胡湯

前回の抑肝散解説で柴胡(サイコ)という生薬が登場しました。

柴胡+釣藤鈎は緊張をほぐす作用がありましたが、柴胡には

もう一つ、重要な効能があります。それを体現するのが今回

紹介する処方です。

 

・小柴胡湯(ショウサイコトウ 9番)

構成:柴胡7g+黄芩3g+半夏5g+人参3g

+大棗3g+甘草2g+生姜1g

 

また変な改行の仕方してますが、下段は消化吸収を助ける常套

配合で、これまで紹介した方剤では葛根湯なんかにも同様に配置

されていて、麻黄などの副作用があり得る生薬を用いる場合や、

ある程度長期に服用することが想定される方剤に組み込まれます。

 

小柴胡湯のメインは上段の柴胡+黄芩(オウゴン)で、この組合せに

抗炎症作用があり、これが柴胡のもう一つの側面です。特に気管

や消化管、肝臓の炎症が得意なので、気管支炎や胃腸炎、肝炎

など、とても応用範囲が広い薬です。この組合せをメインに持つ

方剤は数多く、一般に柴胡剤というグループとして紹介されます。

 

小柴胡湯は柴胡剤の中でも生薬数が少なく、応用範囲も広いこと

から過去に濫用され、結果多くの副作用報告がありました。その

せいで今でも危険な漢方薬という認識がありますが、濫用すれば

どんな薬だって副作用はありますから、正しく使用すれば別段

危険ではありません。小柴胡湯のみならず、柴胡剤で注意する点は

柴胡には「乾かす」作用があることです。抗炎症という魅力的な

効果に目を奪われ、乾燥に留意しないと副作用のしっぺ返しを

喰らうことになるんですね。例えば既に脱水傾向がある方には

そもそも柴胡剤の適応はありません。

 

「小」があれば「大」もあるわけで、柴胡剤のグループには

 

・大柴胡湯(ダイサイコトウ 8番)

構成:柴胡6g+黄芩3g+半夏4g+芍薬3g

+枳実2g+大黄1g+大棗3g+生姜1g

 

なんて薬もあります。漢方薬の名称上の「大・小」は身体への

影響力により使い分けられますので、この8番の方が9番よりも

影響が大きいということになりますが、それは大黄(ダイオウ)が

配合されていることに起因します。大黄は下剤成分を含むので

少量であっても身体に変化を来しやすいということでしょう。

 

芍薬+枳実(キジツ)+大黄とすることで腹痛や便秘に効能を発揮

しますから、9番の守備範囲を広げた薬、と見る事もできます。

敢えて8番から大黄だけを抜いた「大柴胡湯去大黄」なんて

のも保険漢方薬であります。ウチでは採用してませんが。

 

柴胡剤はまだ重要処方があるので、次回も柴胡剤の中から紹介

したいと思います。あ、次回予想してた人、すんません。あ、

そんな奇特な人いないか。(笑)

2020年5月11日 月曜日

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漢方薬解説-12 抑肝散

世界的に自粛が続く中、にわかにDVや虐待が問題視され始めて

います。日本ではそこまで重大になっていませんが、医療従事者

への差別や、県外からの来訪者への攻撃、パチンコ店に行く人の

つるし上げ、など方向性は同じのような気がします。背景には

漠然とした不安やイライラが潜むのではないでしょうか。

 

さて、今回取り上げる漢方薬はそんな精神的緊張状態に対する

ものです。

 

・抑肝散(ヨクカンサン 54番)

構成:柴胡2g+釣藤鈎3g

+当帰3g+川芎3g+茯苓4g+蒼朮4g+甘草1.5g

 

変なところで改行してますが、下段の生薬はこれまで何度も出て

きた生薬ですね。これらに緊張緩和の効能はありません。上段、

柴胡(サイコ)+釣藤鈎(チョウトウコウ)の組合せにその効能があり、

本処方のコアとなっています。

 

緊張緩和作用があるので、54番が活躍するのはストレス関連

症状であることは確かです。イライラして眠れないとか、炎症が

ないのに痛みやかゆみが続くとか、音や光にひどく過敏になる

とか…。ストレス関連症状は増えていますから、54番を処方

する機会も増えていますが、認知症や発達障害に使用される場合

があるようです。ダメではないですが、これらそのものを治すわけ

ではなく、キレて暴力をふるうとか、思い通りにいかなくて癇癪

を起こすとか、あくまで緊張が強い症状にのみ効果があると認識

すべきです。

 

もちろん下段の生薬に適合するかも重要です。下段の生薬はよく

見ると当帰芍薬散(23番)とそっくりですね。ということは

過敏緊張状態に伴って血流や水分代謝が悪い時ほどよく効く、

と言えます。また23番との合方はほとんどの生薬が重複する

ので相性が良い、とも言えますね。

 

54番には派生処方があります。

・抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ 83番)

構成:抑肝散+陳皮3g+半夏5g

 

派生いうか、陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を追加しただけです。

陳皮も半夏も吐き気や腹満などの消化器症状を改善する生薬

なので、ストレスで食欲が落ちるとか、気持ちが悪くなる場合

にはこちらが選択されます。54番は加害者になり得る人に、

83番は被害者になってしまった人に、なんて使い分けを

教わったことがありますが、まあそれは参考程度に。(^ ^;)

 

また、54番は実証向けで83番は虚証向けなんて解説もあり

ますが、これはやめた方がいいです。実とは「過剰」なことで

虚は「不足」を示しているだけで、“何が” 過剰なのか不足なのか

は分かりません。「実、虚」だけでは目的語が無いので処方

選択の手掛かりとはなりません。

 

日本漢方では実証=体格がよい、虚証=痩せている、と判断する

傾向があるので注意が必要です。そう、25番と23番の使い

分けでも紹介した落とし穴にはまる可能性があるわけです。

まあ54番と83番はほとんど変わらないので誤用しても大した

問題は起きませんが。

 

54番は使いやすく応用範囲も広いですが、それは“気” の緊張と

“血” の不足、“水” のアンバランスを1剤で補正できるからで、

ストレスの万能薬、というわけではない点に留意しましょう。

2020年4月27日 月曜日

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漢方薬解説 -11 加味逍遙散

桂枝茯苓丸(25番)、当帰芍薬散(23番)、と来たらこの

処方を紹介せねばなりますまい。予想通り、の方も多いのでは

ないでしょうか。(^ ^)

 

・加味逍遙散(カミショウヨウサン 24番)

構成:柴胡3g+当帰3g+芍薬3g+茯苓3g+蒼朮3g

+甘草1.5g+生姜1g+薄荷1g+牡丹皮2g+山梔子2g

 

23、24、25番と連番になっていることもあり、これら

3薬は “婦人科漢方三銃士” の如く頻用されています。どれも

月経の不調や更年期の諸症状に使用され、24番は特に不眠や

イライラがある場合に使用されます。もちろんそれぞれ効果は

ありますが、問題はその選び方なんですね。体型や顔色などで

使い分けることが当然のように紹介されますが、それはむしろ

補助的な診断法です。またそれをやると併用の選択肢がなく

なるのでもったいないです。やはり構成生薬から考えることが

主でなければなりません。

 

では24番を解析してみましょう。生薬数は10種でこれまで

紹介してきた処方の中では比較的多いですね。しかし「加味」

とは「生薬を足す」という意味なので、加味逍遙散の本体は

「逍遙散」です。上記構成の最後の2つ、牡丹皮(ボタンピ)と

山梔子(サンシシ)が後から加味された生薬です。

 

つまり逍遙散という薬があって、何か物足りないから2つ足して

みたら適応する人が多くてヒット商品(笑)になった、という

ことです。では逍遙散とはどんな薬か。中心となるのは柴胡(サイコ)

+薄荷(ハッカ)です。この2つが「気を晴らす」という効果が

あるので、気分が落ち込んだり、胸苦しかったり、イライラ

したり、という症状に良いのです。

 

2〜4番目の当帰、芍薬、茯苓、蒼朮は当帰芍薬散(23番)

にも配合されていましたから、23番+気を晴らす(理気作用と

言います)のが逍遙散、という見方ができますね。

 

さて加味された山梔子は「冷やす」効果があります。牡丹皮は

桂枝茯苓丸(25番)にも配合された血を巡らせる生薬です。

この加味された効能こそが24番の意味ですから、そう、ほてり

の有無がこの薬を選択する上で重要、ということになります。

理気作用にばかり目が向いて「不定愁訴の漢方」なんて紹介

されることも多いですが、それは逍遙散のことであって24番に

特化したものではありません。

 

不定愁訴は“原因が特定できない非定型的症状” みたいに捉えられ

ますが、そもそもは「訴えが一定しないこと」なので原因不明

の難しい症状のことではありません。これも24番を誤用する

ことに繋がるので注意が必要です。

 

生薬数が増えれば効能が増え、組合せによる副次的な効果も付与

されるので一気に複雑になる気がしますが、考え方は全く変わり

ません。…って、解説長い?だってヒマなんですもの。(笑)

2020年4月16日 木曜日

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