今回は、前回紹介した十全大補湯(48番)と双璧をなす
参耆(人参+黄耆)剤である補中益気湯です。こちらも非常に
有名な漢方薬ですが、48番と双璧をなすからなのか、
今ひとつ使い分けがしっかりなされていない側面もあります。
構成を見てみましょう。
・補中益気湯(ホチュウエッキトウ 41番)
構成:人参4g+蒼朮4g+甘草1.5g+大棗2g+生姜0.5g
+柴胡2g+当帰3g+陳皮2g+黄耆4g+升麻1g
上段はほぼ四君子湯(75番)ですから、胃腸を助ける薬で
あることは間違いありません。48番と共通する部分ですね。
48番ではこれに四物湯と桂皮、黄耆が追加された構成に
なっていましたが、41番では下段が随分違います。ここが
分かれば使い分けも容易になります。
ここでポイントになるのが柴胡(サイコ)と升麻(ショウマ)です。
柴胡は抗炎症作用と理気作用がありました。そして升麻は
様々なものを “持ち上げる” 作用があります。と言うことは
41番の精確な適応は消化吸収能力が落ち、それに伴って
炎症がくすぶる、さらに “落ちている” 病態、となります。
具体的に言うと胃腸風邪などの感染症で食欲が戻らないとか、
食欲がなくて気分が落ち込む、なんて場合が良さそうです。
胃下垂や膀胱下垂、子宮下垂などの解剖学的病態にも使用
されますが、これは升麻が配合されるからで、やや拡大解釈
かも知れません。柴胡とのタッグを考えると、むしろ精神的
な落ち込みの方が効果が期待できるでしょう。ちなみに
参耆剤としては48番より高用量なので、胃腸症状に対する
効果は48番より優れています。
さて、41番を理解する上でもう一つ大事な視点があります。
それは「何が配合されていないか」です。これまでは構成生薬
そのものに着目して効能を理解するよう努めてきましたが、
配合されていないことの意味、というのもあるんですね。
41番で敢えて配合されていない生薬、それは桂皮+茯苓です。
これまで何度も登場した組合せですね。「気を降ろす」効能
がありました。これが升麻の効能とバッティングしてしまう
ため41番には入っていないわけです。と言うことは、41番
はめまいや嘔気には向いていない、とも解釈できます。
胃腸系の薬ではありますが、嘔気は適応外なんですね。
いかがでしょう?最後は少し難易度が高かったかも知れ
ませんが、処方の理解は構成生薬だけでなく、構成外生薬
からも攻める方が良いぜ、という好例です。頻用処方ほど、
より処方の意図を理解しておくと都合が良いです。(^ ^)