院長室

« 2月 2025 4月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

「何者/永い言い訳」

今年の邦画はどうなってんだ、という傑作・力作が多い

ゆえの嬉しい悲鳴が関係者の間では広まっている模様、

というニュースがあるかは定かではありませんが、まさに

この2作は本年を象徴する作品だと思います。まだ今年

終わってないけど。

 

「何者」は就職活動を題材に、現実に直面し苦悩する

若者の心理を描いた作品。こう書くと、よくある話っぽい

のですが、本作はひと味もふた味も違います。確かに

途中までは仲間内での恋愛や嫉妬などを交えながら、

社会に出るという大人と子供の境界線にスポットを当てて

います。しかーし!問題はそこからね。もちろん内容は

言えません。(笑)ただ、甘酸っぱい青春もの?おじさん

そんなんキョーミないよ、と切り捨ててしまうのは大変

もったいない作品です。

 

僕は就職活動もしていないしツイッターもやらないので、

そこまで感情移入はできませんでしたが、逆にこれらを

体験している世代にはむしろホラー映画かも知れません。

主演の佐藤健さん、菅田将暉さん、有村架純さん、二階堂

ふみさん、皆さん大学生で全く違和感ないのが凄い。

さすがに山田孝之さんは無理があったが。僕の中では

彼はコメディアンなので、なんか笑えてしまう。スンマセン。

 

そして「永い言い訳」ですよ。僕と同い年の西川美和という

女性の監督さんの作品ですが、まあ、天才ですね。まずは

彼女の作品は全て脚本も彼女が手がけている点。最近は

ほとんど原作ありきの映画ばかりですが、彼女は制作の姿勢

から違うわけですよ。そしてどの作品も超ハイクオリティ。

 

特になぜか男性の深層心理を描くのに長けていて、観ている

方はずっと緊張しっぱなしです。なのでめっちゃ疲れるの

ですよ。(笑)今作は長年連れ添った妻をバスの事故で亡く

した男の話。妻に対する愛情はなく、周囲の憐憫の感情に

当惑する中、真逆の遺族男性と知り合って…というお話。

正直、これまでの西川作品の中では一番 “親切” な作りで、

やや説明セリフが多い気もしますが、それでもやはり凄い。

 

主演は本木雅弘さん。とても良い。それ以上なし。ありがとう。

そしてもう一人の主演とも言うべき主人公とは対照的な男を

竹原ピストルさん。いや、出たな、ピストル。松本人志監督

の「さや侍」で鮮烈なデビュー(?)をしたヴォーカリスト

です。今回も強烈です。ぜひ「俺のアディダス」という曲を

聴いてみてください。

 

もし観る映画に困っていたら、久しぶりに映画でも観るかなと

考えていたら、大作洋画に疲れていたら、日本人なら(ええっ)

この2作は期待を裏切りませんぜ。

2016年10月27日 木曜日

カテゴリー 院長室

タグ

「ハドソン川の奇跡/グッドモーニングショー」

相性が悪いなどとエラソーなことを言っておきながら結局

毎回観ているクリント・イーストウッド監督の最新作

「ハドソン川の奇跡」。2009年に実際に起きた飛行機

の不時着事故を描いています。主演の機長さんをトム・ハンクス

さんが、副機長をアーロン・エッカートさんが演じています。

 

前作の「アメリカン・スナイパー」でもそうでしたが、英雄視

されている人物を英雄として描かず、苦悩や焦りといった

人間っぽい側面を描いているのが特徴です。つまりあまり

真新しさはなく、イーストウッド監督にしては前作よりさらに

親しみやすい作品になっているので若干の肩すかし感は

あります。

 

ただその巨匠査定(?)を差し引けば十分に面白く、100分

程度に納めた潔さもかなり好感が持てます。異常に引き延ばして

最後に思い切り感動させよう感のある作りは辟易しますからねぇ。

史実でしかも結果が分かっているお話をこんなにスリリングに

描けるのには驚嘆しますし、それを成し得たのはトム・ハンクス

さんの演技の賜物です。原題は「Sully」で機長の愛称。要はこの

映画は事故そのものよりも英雄扱いされた機長さんの心の動きを

追うことが本質なんですね。でもそれでは日本人には何のことだか

分からないのでベタな邦題になったようですが、これはトムさんの

演技を台無しにしてしまいかねない愚行ですな。

 

そして「踊る大捜査線」の脚本家、君塚良一さんの監督作、

「グッドモーニングショー」。「踊る〜」は劇場作第1弾が

記録的ヒットを飛ばし、第3作が史上稀に見るガッカリ作になった

ことでも有名(?)です。ドラマが抜群に面白かっただけに、

やはりテレビマンに映画は無理なんよ、なんて言われたもんです。

 

ならば!と思ったかどうかは知りませんが(笑)、テレビの、

それも朝のワイドショーの現場を題材にしたのが本作です。

もうこれは水を得た魚で、あちこちにちりばめられるトリビア

に「ひるおび!」好きの僕も唸りました。「へぇ〜」ボタンが

あったら連打してますね。

 

で、このリアリティさのおかげでちょっと現実離れした展開も

なんか意外とすんなり受け入れられたりします。主演の中井貴一

さんは相変わらず芸達者だし、犯人役の濱田岳さんもやはり上手い。

その他、吉田羊さん、時任三郎さん、志田未来さんなど皆さん

お上手でした。ドラマ臭は抜けませんが、上記のことがあるので、

狙った演出とも取れます。

 

2作とも飛び抜けた傑作とまでは言えませんが、安定した面白さ。

これもまた娯楽としては大事な要素でしょう。なんせ月末には

恐らくまたメンタルを削るであろう西川美和作品が待ってます

からな。体調を整えねば。(笑)

2016年10月13日 木曜日

カテゴリー 院長室

タグ

「聲の形/レッド・タートル」

いまだ収まらぬ「君の名は。」ムーブメント。確かに僕も

絶賛したけど、周囲が盛り上がると冷めたりする天の邪鬼

なヤツです。「シン・ゴジラ」も観てね。

 

さてさて、「聲の形」も日本のアニメで、ほんわりした

ビジュアルとは裏腹に胸を強烈にえぐる傑作、いや、問題作です。

主人公は小学生の頃に聾唖の転校生に悪質なイジメをします。

でもその後今度は自分がイジメの対象となり、孤立したまま

高校生に。因果応報の諦観を持ちつつも拭えぬ罪悪感からある

行動に出るのですが…、というお話。原作コミックは未読ですが、

極めて情報量の多い、それでいてまとまりの良い脚本が秀逸です。

 

イジメは社会問題にもなっていますが、その本質が差別や格差

なのであれば、子供社会に限ったことではありませんし、

また恐らく消えることのない人間の性でもあると思います。

だからこそ、観客全員がハッとし目を背けられなくなる。僕も

心が痛かった。本作が素晴らしいのは、聾唖の少女を憐憫の

対象とせず、登場人物の心像を平等に描いているところでしょう。

「君の名は。」のような圧倒的な迫力はありませんが、繊細で

全員に響く素敵な作品です。でも上記を踏まえて観ないとヤケド

するぜ!

 

そしてジブリがちょっと絡んでることでこれまたちょっと話題に

なったフランス発のアニメ「レッド・タートル」。なんと無声

映画です。海で難破して無人島に流れ着いた青年と不思議な

赤いウミガメとの関わりを描くのですが、非常に抽象的で、まあ

フランスはそんなん多いけど(^ ^;)、答え丸投げ的な作品です。

その時点で苦手な方もいると思いますが、日本アニメの当たり年

の影で意外と存在感を放つ異作です。

 

解釈の仕方は様々ですが、だからこそ楽しみ方も色々あると理解

すれば一見の価値アリです。ちなみにジブリ臭ははぼありません

ので(笑)、それは期待せぬよう。でも自然の描き方やデフォルメ

された蟹さんはやはりジブリの影響か?そんなことを考えるのも

既に監督さんの手のひらの上なのかもね。

 

しかし今年は邦画の勢いが凄い。近年稀に見る豊作ですね。10月

も話題の邦画が目白押しなのでまだまだ収穫がありそうです。

2016年9月29日 木曜日

カテゴリー 院長室

タグ

「超高速!参勤交代 リターンズ」

お上の無理なお達しを智恵と勇気と体力で乗り切る痛快

コメディの続編。前作は「参勤」までの道のりだったので、

今回は「交代」を描く訳ですが、これ以上ない2番煎じの

薄い内容という悪い続編の典型例でありました。

 

前作での、「え?コレどう乗りきんのよ?」「そう来たか!」

というワクワク感やテンポの良さは消え失せ、ほぼ力ワザ。

苦労して何とか5日間で「参勤」した道のりを今度は2日間で

帰らねばならない、という冒頭、なんと「休まず走る!」で

全会一致。そして難なくやり遂げる超人っぷり。(笑)こんな

前作を否定するというオウンゴールでの幕開けですから、

むしろ最後まで鑑賞に耐えうるのかが不安でしたが、まあ結局

終始そんなゴリ押し系でやはり着地。エンドロールでも前作

の様子を流すあたり、2作でワンセットとでも言いたげですが、

前作の魅力まで半減させる威力があるので、これはやはり

黒歴史化した方がよろしいでしょうな。

 

俳優陣は古田新太さん、宍戸開さん、渡辺裕之さんら新キャラ

はいますが、基本前回の引き継ぎ。深キョンは相変わらず可憐

ですが、メインキャストの活躍の場は少なくギャグもお寒い。

とにかく主要キャラが無敵かつ善人なので、話が進むにつれ

どんどんリアリティが失われていくと言うね…。前作では、

「負けるな、頑張れ!」と応援したくなりましたが、今作では

「そんなヤツいねーよ。ホジホジ」みたいになっちゃいます。

なんか全編にわたり全演出にわたり残念。カモン波田陽区。

 

前作未見の方は観ないと思いますが、前作が気に入った方も

できればそっと見なかったことにした方が良いかも知れませぬ。

入場時、家族に介助されて入って来られた老夫婦が終了後、

迎えに来た家族に「面白かった?」と聞かれ、超高速で

「前の方がええわ」と返したのがピークでした。(笑)

2016年9月15日 木曜日

カテゴリー 院長室

タグ

「君の名は。」

どこでどう火が付いたかよく分からないんですが、超絶人気

で都市部では満席も出ている日本のアニメ映画「君の名は。」

です。僕も全くノーマークで、評価の高さから観に行った

クチなんで、新海誠監督の過去作品なんかは未見です。

 

うん、確かに凄かった。CMでは、遠く離れた場所で心を

通わせる少年と少女の物語とだけ紹介されていて、通常なら

「かっ!ぺっ!」的反応(お下品)でスルーしちゃうトコ

だったのですが、見逃さないで本当にヨカッタ。確かに

前半は青春映画まっしぐら(?)で若干こそばゆい思いを

するわけですが、これは実はミスリードで、下手をすると

SF過ぎて引かれてしまう本作のメインテーマを現実に繋ぎ

止める役目もしています。つまり脚本演出が極めて上手い。

 

中盤以降のミステリアスな展開とラストへのカタルシスは

美しい画と相まってゴジラ顔負けの迫力。人の絆を描きながら

も、感動お涙頂戴な方向性でなくどこか冷めた、俯瞰した

距離感で終始するのも好感度高しです。このあたりも

ヒューマンドラマを敢えて排除した今年の大傑作「シン・

ゴジラ」と何となくリンクするのですよ。両作ともネタバレ

厳禁でここまで来ているので、内容紹介はここまでで。

 

アニメと言えば声優さんが重要な役割を担いますが、旬な

俳優に無理くり声をアテさせる風潮がある中、今作の

ヒロインには上白石萌音さんが抜擢。大大傑作「おおかみ

こどもの雨と雪」にも出演しているそうで。もう一人の

主人公の少年には神木隆之介さん。お二人とも素晴らしい

演技でした。性別を超えるので(笑)なかなかの難度を

要求される役を見事にこなしています。

 

大号泣するような作品ではないですが、日本人の文化に

根ざした、美しい映画です。邦画の実写とアニメでこんなに

盛り上がった年があっただろうか。この夏はゴジラと本作

に感謝です。

2016年9月5日 月曜日

カテゴリー 院長室

タグ