相変わらず時短営業中の映画館ですが、意外とお客さんは
戻ってきているようで何よりでした。そして相変わらず邦画
ばかりですが、これも意外とアタリが多いので素敵。(^ ^)
まずは藤井道人監督の「ヤクザと家族」。ヤクザの世界しか
知らない主人公にとっての家族とは?というテーマなんですが、
抗争や暴力表現に目を奪われて若干ブレる感じ。古い硬派な
“極道” から暴対法下で生きづらい現代のヤクザまで色々と
描かれていて飽きさせない演出ですが、個人的にはもっと
“家族” に振っても良かったかなと思う。
主人公を演じる綾野剛さんは10代から30代までのおよそ
20年間を見事に演じており、これは一見の価値アリ。また
本作では1999年、2005年、2019年と3つの時代
が描かれるのですが、時代ごとにスクリーンの枠を意図的に
変える演出も面白いです。マニアック過ぎるけど。(^ ^;)
組の “オヤジ” を演じる舘ひろしがヤクザっぽくないとか、
ヒロインに惹かれる場面が安直だとか、まあ細かい不満は
あるものの、これが監督の完全オリジナル作であることは
高評価です。今後が楽しみです。
対して本当に僕と同年代?!と思ってしまうほどデビュー作
からずっと人間の負の側面を深くシニカルに描き続けている
老獪な(?)西川美和さんの新作「すばらしき世界」。偶然
にも本作も人生の大半を刑務所で暮らしてきた初老ヤクザの
出所後を描いた作品です。
まっとうに生きようとするも、何もかも思うように行かず、
暴力で解決する衝動に駆られながらも、冷たい世間と温かい
人々に影響を受けていく物語…と思っちゃあ、いけません。
なんせ西川監督ですからね。
これまで全作オリジナル脚本で勝負してきた西川監督が、
今回は佐木隆三さんの「身分帳」という小説を原案にして
います。とうことは「すばらしき世界」というタイトルは
西川監督によるものだということ。まさにこれがキモ。
最後の最後で背筋が寒くなりました。さすがだわ。
主人公を演じた役所広司さんも素晴らしく、また周りの
キャストも皆良かった。特に主人公と対比的に描かれる
仲野太賀さんが上手。ちなみに北村有起哉さんが上記
「ヤクザと家族」ではバリバリ極道のアニキを演じ、今作
では反社を蔑視する役所員を演じているのが面白い。
この役者さんもカメレオンだよねぇ。
両作ともにヤクザの悲哀を描くものなので、その時点で
ハードルが上がる人もいるとは思いますが、同じような題材
が監督でこうも違う作品になるか、という対比は面白いと
思いますよ。