栄養療法は「栄養素の過不足を分析し意図的に操作・改善
する治療法」と定義できます。例えば血液検査をして鉄が不足
していることが分かり、症状が相関するので鉄を多く摂るため
の食事を指導する、食事では足りない場合はサプリメントを
使用する、ということです。
ウチでも多くの方が実践されていますが、一番重要なのは、
その過不足の原因です。食事制限やサプリメント摂取は必ず
しも根本治療になるとは限りません。その背景に大きな障害
があれば当然そここそが治療の本丸となります。栄養の過不足
の裏に隠れている病態を何回かに分けて紹介しましょう。
まず重要かつメジャーなのがピロリ菌感染です。ピロリ菌は
胃内で増殖し、胃癌や十二指腸潰瘍の原因となる菌ですが、
胃酸を薄める能力があるがゆえに胃内に定着することができ
ます。つまりピロリ菌陽性=胃酸が薄いということです。
胃酸が薄いとどうなるでしょう?実は栄養の吸収に甚大な
影響を及ぼします。それがタンパク質とミネラル全般です。
タンパク質は分子が大きいので、そのままのサイズでは腸から
吸収できません。それを咀嚼、唾液、胃酸、消化酵素の作用
を経て吸収可能サイズになります。ということはピロリ菌陽性
下ではタンパク質の分解が進まず、結果としてタンパク質不足
のデータとなります。さらに吸収されなかったタンパク質は
腸内悪玉菌のエサとなり得るので、腸内環境悪化のオマケ
まで付いてきます。
また鉄や亜鉛、マグネシウムなどのミネラル類は胃酸の作用で
イオン化されることにより吸収しやすくなりますから、これも
タンパク質同様、ピロリ菌陽性下では吸収阻害が起こることに
なります。タンパク質不足やミネラル不足は栄養療法を実践
していると高頻度で遭遇しますが、単純にそれらを補給すれば
いいとは言えないのです。
ピロリ菌は井戸水の飲用で感染すると言われ、現代では少ない
ように思われますが、経口感染するため祖父母や両親から
子供に感染することもあり、団塊の世代が一番多いものの
全世代に陽性者はいます。検査は色々な手段がありますが、
ウチの場合は血液検査を採用しています。胃の内視鏡を実施
する場合は同時にやると保険内で検査できますので、近々に
予定されている方は一考すると良いでしょう。
また、ピロリ菌の診断基準は数年前に改訂され厳しくなった
ので、数年前に陰性と判断されていても現在の基準では陽性と
なることがありますから注意が必要です。栄養療法的分析で
タンパク質やミネラルの不足が疑われる場合、ピロリ菌感染
は見逃してはいけない病態です。