院長室

« 7月 2024 4月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

ピロリ菌と栄養

栄養療法は「栄養素の過不足を分析し意図的に操作・改善

する治療法」と定義できます。例えば血液検査をして鉄が不足

していることが分かり、症状が相関するので鉄を多く摂るため

の食事を指導する、食事では足りない場合はサプリメントを

使用する、ということです。

 

ウチでも多くの方が実践されていますが、一番重要なのは、

その過不足の原因です。食事制限やサプリメント摂取は必ず

しも根本治療になるとは限りません。その背景に大きな障害

があれば当然そここそが治療の本丸となります。栄養の過不足

の裏に隠れている病態を何回かに分けて紹介しましょう。

 

まず重要かつメジャーなのがピロリ菌感染です。ピロリ菌は

胃内で増殖し、胃癌や十二指腸潰瘍の原因となる菌ですが、

胃酸を薄める能力があるがゆえに胃内に定着することができ

ます。つまりピロリ菌陽性=胃酸が薄いということです。

 

胃酸が薄いとどうなるでしょう?実は栄養の吸収に甚大な

影響を及ぼします。それがタンパク質とミネラル全般です。

タンパク質は分子が大きいので、そのままのサイズでは腸から

吸収できません。それを咀嚼、唾液、胃酸、消化酵素の作用

を経て吸収可能サイズになります。ということはピロリ菌陽性

下ではタンパク質の分解が進まず、結果としてタンパク質不足

のデータとなります。さらに吸収されなかったタンパク質は

腸内悪玉菌のエサとなり得るので、腸内環境悪化のオマケ

まで付いてきます。

 

また鉄や亜鉛、マグネシウムなどのミネラル類は胃酸の作用で

イオン化されることにより吸収しやすくなりますから、これも

タンパク質同様、ピロリ菌陽性下では吸収阻害が起こることに

なります。タンパク質不足やミネラル不足は栄養療法を実践

していると高頻度で遭遇しますが、単純にそれらを補給すれば

いいとは言えないのです。

 

ピロリ菌は井戸水の飲用で感染すると言われ、現代では少ない

ように思われますが、経口感染するため祖父母や両親から

子供に感染することもあり、団塊の世代が一番多いものの

全世代に陽性者はいます。検査は色々な手段がありますが、

ウチの場合は血液検査を採用しています。胃の内視鏡を実施

する場合は同時にやると保険内で検査できますので、近々に

予定されている方は一考すると良いでしょう。

 

また、ピロリ菌の診断基準は数年前に改訂され厳しくなった

ので、数年前に陰性と判断されていても現在の基準では陽性と

なることがありますから注意が必要です。栄養療法的分析で

タンパク質やミネラルの不足が疑われる場合、ピロリ菌感染

は見逃してはいけない病態です。

2020年10月8日 木曜日

カテゴリー 院長室

タグ