漢方医学では体幹部を上・中・下と3つに区切り、それぞれ
上焦、中焦、下焦、と表現します。中焦はだいたい横隔膜から
ヘソくらいまでのことで、機能的には消化吸収能を指します。
なので、処方名に「中」という漢字があれば胃腸に効く薬なの
かな、とアタリを付けることができます。補中益気湯とかね。
・大建中湯(ダイケンチュウトウ 100番)
構成:人参3g+乾姜5g+山椒2g
とてもシンプルな構成ですね。「中を大きく建て直す」という
名称からも分かる通り、胃腸機能改善に特化しています。構成
生薬すべてが温める効能を持つので、冷えがあることが使用の
前提となります。冷えて便秘する、とか冷えて腹痛、とか。
実はこの漢方薬、外科領域で頻用されています。特に開腹術後
の腸管麻痺に。開腹術後は腸の動きが低下するので、いきなり
食事を再開できないのですが、100番を使用すると復帰が
早いんですね。この理由はまさに開腹術では腸が冷えるから、
です。100番で強力に腸を温めることで腸管麻痺を改善させて
いるわけです。山椒(サンショウ)のせいで少しピリッとした味が
しますが、副作用もなく速効性がある使いやすい漢方薬です。
小柴胡湯と大柴胡湯があったように、こんな処方もあります。
・小建中湯(ショウケンチュウトウ 99番)
構成:桂皮4g+芍薬6g+甘草2g+大棗4g+生姜1g+膠飴10g
名前はソックリでも構成は全く違いますね。そしてよく見ると
この構成は桂枝湯(45番)です。桂枝湯の芍薬を増量した
のが桂枝加芍薬湯(60番)で、さらに膠飴(コウイ)を足した
のがこの99番、という見方ができます。膠飴はその名の通り
飴(あめ)で味は甘く、気を静める作用があります。
飲み易く、気を静めるので昔から小児の夜泣きなどに頻用
されてきましたが、あくまで「建中湯」なので消化器系に
作用するのが本態です。膠飴以外は60番ですから、特に
腹痛によく効きます。
さて、100番と99番を合体させると「中建中湯」という
名前になります。冗談みたいなホントの話。(笑)保険薬
にはないですが使う場面は結構あったりします。ちなみに
以前紹介した人参湯(32番)は別名、理中湯(リチュウトウ)と
言います。お腹を整える、という意味でしょうか。お腹を
建てたり整えたり、と漢方は「中」をとても重要視して
いますね。